先輩つくり手が樽の重要性を語る~第13回 CELLARR SALONを終えて(前編/全2編)~

今回は、7月29日に開催された第13回のレポート記事を全2編にてお届けいたします。

第13回のテーマは、「緊急企画!若きつくり手たちへ~先輩つくり手が樽の重要性を語る〜」。


ひとつ前の第12回(レポート記事はこちら)で、ウイスキーづくりのキーポイントとして盛り上がった「樽」のお話。そこで、その重要性をさらに深堀すべく、今回は「樽」に絞ったテーマを設定しました。

長年のウイスキーづくりの中で、樽に関する様々な知見を蓄積されてきた先輩つくり手のお二人をゲストにお迎えし、若きつくり手たちに向けてアドバイスやメッセージを熱く語っていただきました。

それではレポート記事から、今回のイベントの雰囲気をお愉しみください。

ウイスキーそのものやウイスキーにまつわるストーリーが好きな方々が集い、ここでしか聞けない話を愉しむウイスキーのオンライン社交場 CELLARR SALON。本日もお愉しみください。

今回のゲスト

CELLARRアドバイザー|サントリー株式会社 元チーフブレンダー

輿水 精一 氏(以下敬称略)

元ニッカウヰスキー株式会社 シニアチーフブレンダー

佐久間 正 氏(以下敬称略)

※今回のイベントには、日本各地さまざまな蒸溜所のつくり手の方にもご参加いただきました(計9蒸溜所)。記事内では蒸溜所名を、A・B・C…と置かせていただいております。

はじめに

ーーー皆様、本日もCELLARR SALONにご参加いただきましてありがとうございます。ファシリテーターを務めます、代表の辻です。よろしくお願いいたします。

今回のテーマが「緊急企画!若きつくり手たちへ~先輩つくり手が樽の重要性を語る〜」ということで、様々な知見を得られてきた先輩つくり手のお二方にゲストとしてお越しいただいております。

まず佐久間さん、イベント開始に際して一言いただけますでしょうか。

元ニッカウヰスキーブレンダーの佐久間と申します。 今日はよろしくお願いいたします。

ーーーありがとうございます。輿水さんからも、一言お願いいたします。

輿水です。よろしくお願いします。今日はウイスキーファンだけじゃなく、つくり手の人も多くいらっしゃっていると聞いています。楽しみにしています。

ーーー楽しみにしているとおっしゃっていただき、嬉しいです。皆さん、いつも通り忌憚なくよろしくお願いいたします。 では、始めていきたいと思います。

早速なのですが前提として、今回このテーマを設定した背景をお話させていただきます。きっかけは、輿水さん・新潟亀田蒸溜所の堂田社長・久住蒸溜所の宇戸田社長にゲストとしてお越しいただいた、ひとつ前のCELLARR SALONです。

その時、樽について結構議論がありました。新しいクラフト蒸溜所もどんどん増えて、品質を高めていこうと考えておられる中「樽ってやはり難しいよね」という話もあったのですね。そこで今回、急遽このテーマでしっかり議論していければと思った次第です。

まず、樽の重要性についてです。いろいろなプロセスがある中で「樽」がどれぐらい重要かということを、佐久間さんと輿水さんのこれまでのキャリアも含めて、お伺いできればと思っております。

佐久間さんから、よろしくお願いします。

はい。樽での熟成というのは、当たり前のことですが、ウイスキーの製造工程で1番長い時間がかかるものです。どんな樽を選ぶかによって、出来上がる熟成のウイスキーの品質が当然変わってきます

例えばそんなに差がない原酒をシェリー樽に詰めると、何年か経ったらあまり差が無くなって、どっちかどっちかわからないかもしれませんよね。極端に違えば別ですけれど。あるいは、リフィルに入れると元々の原酒の性格がはっきり出て、差がわかってくることもありますね。

いろいろな要素があるので一言で表すのはとても難しいのですが、それぐらいウイスキーの品質に影響を与えるのが樽ですから、その使い方が一番重要だと思っています。

ーーーありがとうございます。輿水さん、よろしくお願いします。

佐久間さんがおっしゃった通りです。仕込み・発酵・蒸留等というのは、 その段階で「なんかちょっとおかしいな」とか「ここはトラブルだ、じゃあどういうアクションを取ろうか」と、すぐやり方を変えることができます。しかし貯蔵に関しては、何年も置いて樽から出してみたら「あれ、こんなもんかな」といってそこでアクションをとっても遅い。そういう意味では、「熟成」というのは時間がかかるだけに難しいプロセスだと思います。

特にニッカさんもサントリーも何十年とつくり続けてきたわけだから、そのあたりのところはいろいろな経験や知識を踏まえて日常の生産活動を行っていると思います。一方で、新しく始めたところは結構難しいだろうなと思いながら見ています。

ウイスキーの最終的な製品の品質から見たら、貯蔵によって熟成されて出てきた品質がウイスキーの魅力を形作っています。もちろん「ニューメイクの品質」という要素もあるけれど、やはり「貯蔵」はものすごく重要な工程だと思ったほうがいいと思います。放っておけば熟成するっていう話じゃないよ、というのが私の考え方ですね。

ーーーありがとうございます。

樽をどのように管理するか

ーーーまさに「管理の方法」などの質問が事前に結構来ています。例えば、樽管理をする上での基準はどうしたらいいのですかとか、数字的にどう見たらいいのですかとか、ですね。日々現場で一生懸命つくっておられる方たちのリアルな声をいただいております。

輿水さん、樽のチェック頻度や詰めた後に何か起きた時の対応など、可能な範囲でお話いただけますか。

チェックって二つあると思うんですよね。

一つは当然、香りや味といった「品質の評価(香味の評価)」になります。二つ目は、容器としてどうなのか・欠減はどういう風に出ているのか等の「容器の評価」です。

やはり液体を木製の樽に詰めているわけだから、ここはかなりきめ細かく見なければいけません。

特に夏場というのは非常に大きな影響があるから、ひと夏越した後というのは品質をチェックする重要なタイミングだと思います。私はサントリーに入って3年間はボトリング工場にいましたが、その後は研究所に配属になりました。その時与えられた研究テーマの一つが「貯蔵・熟成」だったのですよ。だから、貯蔵のデータを見る機会はかなりありました。1年間を通して樽詰めする・樽払いするというデータは、ものすごい膨大な量が出てくるんですよね。

貯蔵庫別に・貯蔵庫の中でも段数別に・年数別に…とか、それらと品質の関係・欠減の関係とか、様々な切り口とものすごい組み合わせの中でこの膨大なデータを見ていると、気づかされることって結構たくさんあるわけです。

そういうデータを日常的に見るというのはすごく大事だと思いますし、貯蔵環境という切り口で、品質との関係だとか欠減との関係だとかを見るには、貯蔵環境を正しくつかめないと解析もできない。意外と貯蔵の段階でもやることがあるよね、というのが私の感想なんです。

ーーーありがとうございます。佐久間さんも、今の話題で、つくり手の方のお悩みをサポートいただけるようなことあれば、お願いいたします。

今、輿水さんがおっしゃったように、欠減ってものすごく大事なことなのです。日本だと大体、年2.数%程度、少し暖かいと3%ぐらいの欠減になるのですが、これって毎年しっかりデータを取って少しでも欠減を少なくするようにできることをやっているからなのです。
 
一番大事なのはもちろん「漏れない樽をつくる」ということなのですが、なかなかそう上手くいかないんですね。だから、詰める前に水張りして、エアをかけて、漏れていたらとめておく。まあそれは当然のことですけれども、それでもお酒を詰めるとまた違うんですね水では漏れがわからなかったところが、お酒だと漏れてくる
 
うちの会社では、漏れないものに詰めて2〜3週間のうちに全樽見ます。漏れていないか全樽を見て、漏れているものには漏れどめ措置をする。それを必ずやっていますね。
 
ただ、これまた時間が経つと、固まっていたものがお酒で溶けちゃって穴が広がってしまって、ずっと漏れてなかったものが漏れだすということも必ずあります。だから、チェックの頻度としては何とも言えないのですが、定期的に巡回して、 漏れているなと思ったら直す。もう直しきれないと思ったら、その樽は出してしまって別の樽に詰め替える。欠減に関しては、この辺りのメンテナンスがとても重要だと思います。
 
あと品質に関して言えば、定期的に、 まず3カ月、半年、1年、2年、3年…といろいろなテストをしています。この樽にこう貯蔵したらこう変わるよね、という試験は必ずしています。
 
加えて、初歩を作るための年1回のサンプリングも重要です。うちの会社ですと、大体全樽の1%ぐらいしかサンプリングできないんですよ。それでも時々引っかかるんですね。「この樽に入っているやつおかしいんちゃう?」となったら、そのロットを全部見て判定をします。良いものはそのまま、ダメなのは別の樽に詰め替える、というメンテナンスをしていけば、悪い樽に詰めてしまっていたとしても事前に気付きます。
 
先程申し上げたようにうちの場合、サンプリングは全樽の1%ぐらいしかできないのですが、 クラフト蒸溜所さんだったらもう少し…例えば全樽の1割を見るとかはできるんじゃないかなと思います。
 
そうして品質をチェックして、ダメな樽は外してもう1回焼き直す等のメンテナンスをして、貯蔵したら良いものになる樽だけを残すようなプロセスが大切だと思います。

ーーーありがとうございます。しっかりできることをしていくことが大事ですね。

“悪い樽”、”良い樽”とは

ーーー今のお話に関連して、早速つくり手の方から質問をいただいております。

A蒸溜所のつくり手の方からです。「悪い樽から感じ取れる品質には、どのような香味が表れるのでしょうか」とのことです。そもそも”悪い樽”とはなんぞやという話ですね。

輿水さん、お願いいたします。

一つは、やはり「液体を入れる貯蔵容器として本当に大丈夫なのか」という話です。あと一つは、樽というものは熟成という現象が中で起きる反応容器ですから「反応容器としてどうか」。この二面で評価します。

そして熟成がどう進んでいるかという話ですが、一つわかりやすいもので言えば、過剰な渋み・エグみ・収斂味などの、材成分の表れ方。これは「ニューメイクがどれだけしっかりしているか」ということとも関連しているから、単に樽だけを悪者にできない部分もありますが、材成分がどのように出ているかということは非常に注目しています。

ーーーシャープなご回答、ありがとうございます。佐久間さんもよろしくお願いいたします。

ものによっては、樽の味がつきすぎるものがもちろんあるのですが、 そこは仕方ないなと思っています。あとは、ブレンドでどうやってうまく使うかを考えればいいので。そういう訳で、樽の味が出過ぎたほうは何とか救済できるのですが、出ないもの…これは使いものにならないですね。10年経って、真っ白っていう樽ってあるんですよ…全く熟成しない、もう何年樽に入っていても 熟成が進んでないというものもあります。

特に何回転も使っているリフィル等で、そういう樽がぽつぽつ出てくるのです。これは排除していかないと、無意味に年月を重ねるだけになってしまいますので、そこをうまく選別して排除する仕組みを作っておかないといけない。

あともう一つ。悪い樽っていうのは、いわゆる異臭がしてしまうものですね。樽って放っておくと、乾燥して水が入って、腐ってとんでもない臭いになります。そういうものは弾かないといけません。

私は昔、シェリー樽の検品でスペインのへレスに行っていたのですが、 やはりそういう異臭のする樽もあるんですよね。あと、自分のところで空いた樽を保管していてもそういう臭いがついてしまうことがあるので、気を付けて樽を使った方がいいと思います。

多分、樽詰め前には樽の中の臭いをチェックしてから樽詰めされていると思います。

佐久間さんが言われたようにやはりシェリー樽とかでも酸敗したような、結構臭いのするものが混じったりしていましたから、樽詰め前の段階で排除するような仕組みになっているんだと思います。酸敗したような臭いのするものに詰めてしまったら大変ですからね。

A蒸溜所つくり手:ご回答いただきありがとうございました。 まず詰める前に十分チェックすること、そして使えない樽に関しては使えない理由を皆で明確に共有してオペレーションを組んでいきたいと思いました。ありがとうございます。

ーーーありがとうございます。

悪い樽の話でしたが、反対に、先輩方の長いキャリアの中で「こういう樽が良いんだよね」というようなものがあればお話いただければと思ったのですが、いかがでしょうか。

はい。悪い樽は割とはっきりしているのですが「良い樽が何か」という質問は難しいですね。悪い樽を排除したのであれば、まあ、みんないい樽。 あとはその熟成の経過を見て、ブレンドを考えるだけなので。
 
良い樽を選ぶっていう道筋は、樽そのものでは選定が難しいのかな。結局何年か経って、これは良かったよねという話になっていくので。
 
あと、重要なのはいわゆるファーストフィル・セカンドフィル・サードフィルの比率ですね。ざっくり言うと、ファーストフィルって、2割か3割あればいいんですよ。それが10年でセカンドフィルになりますから。良い樽というより、樽の比率をよく考えて貯蔵した方がいいんじゃないかと思います。

ーーーありがとうございます。輿水さん、お願いします。

私も全く同感です。例えば将来シングルカスクだけで勝負するんだったら面白い・個性の強い樽を集めてきたらいいのですが、ブレンデッドウイスキーをつくるとか定番商品で長期熟成のものをつくっていくとかいう話であれば、長期的に計画を立てれば立てるほど古樽はものすごく大事です。

新樽ばっかり、変わった樽ばかり揃っているとブレンドする時が大変だろうな思います。やっていくうちにだんだんと新樽とリフィル、古樽のバランスが整っていくんだろうなとは思いますけど、ブレンダーから見たらそういうバランスはすごく大事です。


前半の記事はここまで。

イベント後半は、新興蒸溜所のつくり手の皆さんの”現場の声”に向き合う時間となりました。ぜひ後編記事もご覧ください。

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