ウイスキーづくり100周年のサントリーと新興蒸溜所が”つくり”のこだわりを語る。~第12回CELLARR SALON を終えて(前編/第2編)

月に1回、ウイスキーそのものやウイスキーにまつわるストーリーが好きな方々が集い、ここでしか聞けない話を愉しむウイスキーのオンライン社交場 CELLARR SALON。

今回は、第12回CELLARR SALON のレポート記事を全2編にてお届けいたします。

今回のイベントテーマは、「ウイスキーづくり100周年を迎えるサントリーと新興蒸溜所が、熟成と販売へのこだわりを語る」

これまで日本のウイスキー業界を牽引してきた一人、サントリー名誉チーフブレンダー 輿水 精一 氏と、これからのウイスキーメーカーの担い手たちが熱く想いを交錯させた時間となりました!

それではレポート記事から、今回のイベントの雰囲気をお愉しみください。

|今回のゲスト

CELLARRアドバイザー|サントリー名誉チーフブレンダー

輿水 精一(以下敬称略)

新潟亀田蒸溜所 取締役社長

堂田 浩之(以下敬称略)

津崎商事|久住蒸溜所 取締役社長

宇戸田 祥自(以下敬称略)

|トークテーマ①それぞれの新興蒸溜所について

ーーー本日も宜しくお願い申し上げます!新興蒸溜所のつくり手である宇戸田さん・堂田さん、早速ですがこのような機会についてどのように感じておられますか?

今回は、ジャパニーズウイスキー業界のレジェンドで、大先輩の輿水さんとお話しできるということで、すごくワクワクしています。また、同時期に稼働を始めた新潟亀田蒸溜所の堂田社長にも、いろいろと深いお話をお伺いできるかなと大変楽しみにしております。

よろしくお願いします!

今日は一緒にお話するのが輿水さんと宇戸田さんということで、私も…ちょっと輿水さんを前に緊張しております(^^;)

いつものことですが、うちの会社は特に秘密などはありませんので、皆さん疑問に思ったことがあったら何でも聞いていただけるとありがたいです。私が答えたくなさそうな鋭い質問も是非していただけると(笑)。全然答えますので!

ーーーありがとうございます!では、少しずつ場を温めながら進めていきましょう。まずは、久住蒸溜所についてのお話を伺いたいと思います。宇戸田さん、お願いします。

久住蒸溜所の宇戸田と申します。よろしくお願いします。
 
私どもは、2021年の2月から稼働してまだ2年半ほどの非常に若い蒸溜所です。

以前から「ローカルバーレイ(地元産大麦を使用したウイスキーづくり)をしたい」と思っていて、実際に取り組みを始めています。しかし、あくまでメインはスコットランドからのモルトで、全体の9割くらいを占めています。ローカルバーレイの製造に占める割合は、まだ1割程度です。

ローカルバーレイに挑む意義というのは、人によってそれぞれ違うかもしれませんが、うちの場合は「大分の麦を使ったウイスキーを飲んでみたい」という私自身の興味がスタートですね。
 
シンプルに、たくさん買えて、供給も安定する大麦を使っていくことは簡単ではあるのですが、せっかく我々のリクエストを聞いてくださる農家さんとの関係性もありますので「こういう麦はどうかな?」「ああいう麦はどうかな?」と、農家さんとしっかりコミュニケーションをとりながら取り組んでおります。しかし、現時点では種子が本当に両手いっぱいくらいしかありません。
 
これを耕作という規模に増やすには3年くらいかかるので、増やして収穫して、それをまた仕込んで…となると、久住蒸溜所が10年物を生むくらいのタイミングでローカルバーレイのファーストが出るという時間軸になると思います
 
ウイスキー事業はそれ自体、時間とお金がすごくかかるのですが、ローカルバーレイに関しては「さらにもう一歩、大変なフローが待ち受けている」というのを今まさに学んでいるところで、まだまだ皆さんに偉そうなことを言える状態ではありません(笑)。

ーーー宇戸田さんは地道に10年を過ごす覚悟をお持ちの方なので、皆さんと一緒にこの時を過ごせたらいいなと思っています。輿水さん、この覚悟を聞いてみていかがですか?

ウイスキーづくりに限らずですが、こういう新しい事業に取り組む時に、自分のやりたいことが明確であればあるほど、最終的な製品のメッセージ力が強くなることは間違いないです。だから、ご自身のやりたいことは是非貫徹していただきたいと思います。

ローカルバーレイの話は、サントリーのサイズではなかなか入っていけない領域で、クラフト蒸溜所の皆さんならではの強みでもありますよね。そこから何が生まれてくるかというのを楽しみにしています。がんばってください。

ーーーありがとうございます。ウイスキーが好きだという想い、そしてローカルバーレイについては現実のおぼつかなさを含めて吐露されていて宇戸田さんらしいコメントだなと思いました。続いては「貯蔵のこだわり」「ストーリーやウイスキーづくりにおける一貫性」などの部分はいかがでしょうか。

つくりの一貫性という部分では、やはり「これは伝統的な製法と照らして、いわゆる”邪道”になってないか」とか「おかしな方向に行ってないか」というところはいつも社内で大事にしています。製造責任者の武石もそこは常に意識していますし、私も日々注意をしている部分です。
 
発酵槽に関してもそうですね。
一番初めから全て木槽にするということはせずに、5個中4個はホーロータンク、1個は木槽を使っていました。木槽は管理が難しいし、全部が全部上手くいくわけではないということを先輩から教わっておりました。だから、木槽の良い管理方法をしっかり学んだうえで全部を木槽に入れ替えました。
 
やはり木槽のほうが久住の環境には合っているな、というのが最近見え始めたところです。木槽のほうが見栄えがいいという方もいらっしゃいます。木槽のビジュアルはもちろん良いと思うのですが、やはり気難しいところはあります…(笑)。扱いを間違うとへそを曲げるときもあります。
 
現場の手間は、とても増えるのですが、それを「おもしろい」とか「じゃあどうすれば上手くいくんだろう?」というのを愉しめるような、いわゆる”蒸溜所としての文化”を皆で共有することを大事にしたいと思っています。
 
貯蔵に関しては、現時点では後手後手になった部分があると思っています。どうしても、たくさんあるウイスキーづくりの工程の中で、ポットスチルをどうしよう・発酵槽をどうしよう・マッシュタン(糖化槽)をどうしよう…そういう部分からはじまって、なかなか貯蔵環境やウェアハウスの状態まで考えが及ばなかったのです。
 
一番初めのウェアハウスは、もともとあった酒蔵さんがつくられた、壁の厚い古い倉庫にダンネージを組んだもので、そこで貯蔵を始めました。二番目は、五段積みくらいの移動式ラックで、そこでも熟成を始めています。

しかし、どうしても「貯蔵」の部分に意識がいって、それをどうコントロールするか・どう熟成に反映させていくかという部分まで、予算の制約もあって手が回りきらない部分が大きいです。これは、もしかするとクラフト蒸溜所の皆さまに共通する問題かもしれません。

今後もウェアハウスの建設計画がありますので、輿水さんに熟成環境に関するご助言をいただけたらありがたく思います。

クラフト蒸溜所の皆さんの取り組みを見ていると、確かにニューメイクまでは非常にしっかり考えていますし、いろいろなアプローチをもって自分たちの”本当に目指したいもの”を追求しようと頑張っておられるなと思います

しかしそれ以降において、具体的な素晴らしい取り組みというのはなかなか見えてこないように思います。もちろん無いわけではないですが、大変な部分も出てくるだろうなと思うのです。

貯蔵環境の話もありましたが、それと同時に、樽そのものが「本当にしっかりした良質なものか」というのも大きな問題です。時間をかけて「3~5年経ってみないとわかりませんでした」となると、時間のロスがとても大きいわけです。だから、樽の評価をきっちりする。それと同時に環境の評価をすること樽を入れ始めた最初の段階からいろいろなデータをとることが重要です。温度や湿度、それから定期的な原酒のアルコール度数の変化や欠減の変化も。
 
欠減はある意味、最適な貯蔵環境であるかというのを調べるのに大事な要素です。欠減のしっかりした定義のもと、他所と比較できるちゃんとした数値を出せているかどうかというのも気になりますね。欠減はコストそのものですから、相当突っ込んだアプローチをしなければなりません。
 
私は、貯蔵というのは、品質をつくりこむための極めて重要なプロセスだと考えています。これをよく「寝かす」という言い方もしますが、この間はやることがすごくたくさんあるのです。
 
温度・湿度、これは貯蔵庫のいろいろな箇所でとらなければいけない。ガス濃度もそれと同じ観測ポイントでとれたら尚いいと思います。でも貯蔵庫は、同じ土地でも立地条件などによって、温度・湿度が全然違ってくるのですよ。これがややこしいですね。蔵は土地のいろいろな過去履歴にまで環境条件として影響を受けるので、意外と一筋縄ではいかないです。
 
だから、苦労してバーボンバレルのファーストフィルあるいはシェリー樽を調達しても「本当に標準的な品質の樽であるか」ということは気を付けて見ていた方がいいです。調達した樽の質が悪くて、せっかくつくったニューメイクの潜在的なパワーを活かしきれず、損をしているところもあると思っています。
 
ただ、調達の話になるとかなり難しくなってしまいます。単一の調達先だと、質のところが全く見えないまま、7~10年経って「ああ、こんなものなのかな」ということになりかねないと思います。

ありがとうございます!とても勉強になります。

ーーーありがとうございます!後ほど、参加者の皆さんからも宇戸田さんに質問してみてくださいね。続いて、新潟亀田蒸溜所の堂田さん、お願いします。

まずはローカルバーレイについてお話させていただきます。

私どもは初年度は約4トン今年は24~25トンくらいのローカルバーレイをつくりました。このローカルバーレイは二条大麦ではなくて、六条大麦でやっています。六条大麦の中でも、粒の大きい「ゆきはな六条」という品種を登録しました。
 
ウイスキーをつくるにあたり、新潟でウイスキー用の麦がつくれないかということを、日本の育種を行っている農研機構の上越拠点で相談しました。六条大麦だったら実績があり、かつ開発中の大きい品種があるということで「ゆきはな六条」を日本初のウイスキー用の麦として農研さんに登録していただいたという状況になっています。
 
おかげさまでWorld Whisky Award 2022でニューポットの新潟バーレイというものがブロンズをいただきましたし、おもしろいかなと思って引き続き使っている状況です。

しかし、やはり問題もあります。それは、収量が低いということです。六条なのでハスクが多いという面もありますし、それからベータグルカンが多いのでその処理をしないと収量が上がらないのです。
こういった問題はあるのですが、コストはかかっても飲んだらおいしいのでこれはこれで使っていこう思っています。

今は農研機構に新たなお願いをして、新潟ではほとんどつくってこなかった二条大麦にも挑戦しようと、ゆきはな六条の親戚の「ファイバースノウ」という品種と宇都宮のほうのビール用麦を掛け合わせて耐寒用の品種をつくっています。それができあがってくると、新潟県産の二条大麦で仕込めるようになります
 
新潟も離農が進んでいるのですが、大規模化をする中で、米から手間のかからない麦に転換する農家さんも増えています。将来的には、うちのウイスキーの半分以上は国内産の麦で製造できるかなと考えています

ーーー将来的というと、いつくらいになる予定ですか?

 大体50トンつくると半分を超えると思いますので、令和8年ごろですね。

ーーー令和8年…楽しみですね!輿水さん、いかがですか?

ローカルバーレイの話は、教えていただくことばかりですね。

でも、ワイン用のぶどう農家さんは全然やっていけないと聞きます。生産する農家さんも、ウイスキーメーカー・ワインメーカーも、両方がハッピーになるような形ができると良いんだろうなと思います。そうすれば、国レベルの話になってしまうかもしれないけれど、麦の品質向上・量的な拡大も実現できると思いますね。

スコットランドに行くと「ファームディスティラリー」を謳い文句にしているところもあり、あれはあれですごいなと思っています。

ローカルバーレイというのは、目指すひとつの方向だと思っています。どういうものが誕生してくるのか、期待しています。

私も昨年の6月に、スプリングバンク蒸溜所に行ってきて、スプリングバンクのローカルバーレイを見せてもらいました。粒が小さく、明らかに二条大麦ではなかったです。もしかすると六条大麦じゃないかと思いましたね。

今スコットランドでも、「ヘリテージモルト」と言うのですかね…。昔の麦芽はどうだったかというところに立ち戻ってお酒をつくってみようという流れがありますね。

彼らは表立って言いませんけれども、かつてと今の品質の違いに対し原点の麦から立ち返って見てみようというのは、私も非常に興味があります。

ーーー貯蔵におけるこだわりの点などは、いかがですか?

貯蔵についてはうちは結構チャレンジングというか、プロの方から見たらアホみたいなことをやっていますけれども…。
 
普通に貯蔵をしているものもあります。一方で、台湾のカバランのような蒸溜所ができているのを見て「実際に暑いところで貯蔵すると、どのように変化するんだろう?」と思い、実験的にコンテナの中にダンネージを組んで、夏は50℃を超えるようなところに樽を置いてみました
 
結果としては、欠減が10%以上出たというのが正直なところです。ただ、それで得られた知見というのは悪くなかったと思っています。このような環境での熟成は、普通の熟成よりもやはり早く進むということがわかりました。そのようなこともやっていますが、ぜひ輿水さんからもコメントをいただければと思います。

コンテナでの貯蔵の様子
(撮影:CELLARR編集部 ※新潟亀田蒸溜所訪問時)

この話は前から聞いていて、すごいなと思っていました。私も、当然熟成が早く進むだろうなと思っていました。色も濃く出ますよね?

そうですね、濃く出ます。

そうですよね。材抽出物というかポリフェノールが多いですし、プラス側の熟成環境ではあるだろうなと思います。アルコール度数はどうなりましたか?

年間で2〜3%減りました。63度で詰めたものが一年で60〜59度くらいになりました。

なるほど。これはまだ当分続けられるんですか?

一部のものは置いておいて、ブレンドの一部として使おうかと考えています。

コンテナの中に、どういった原酒を入れおくといいのか・どういうものがまずいのか、というのはわかってきました。

やはり新樽系のものは、少しまずいかなと思っています(笑)。シェリー樽やバーボン樽は熟成を早めるのには良いかなと思うので、20フィートのコンテナ1台分だけ、今後もそういう実験をしていきたいと考えています。

そういった、いろいろなチャレンジをして得られる知見が大事だと思います。

コンテナの中はかなり密閉された雰囲気ですよね?夏場でしたら、多分まともに目を開けていられないくらいのアルコールガス濃度になっているのではないですか?濃度を測ったことはありますか?

おっしゃる通り、目も開けられないくらいですね。濃度を測ったことはまだないです。

そうですか。その環境でなにが起きてるのか、欠減等も非常に興味があるところでした。

今年は是非アルコールガス濃度を測ってみたいと思います!

ーーーいいですね、おもしろいお話を伺えてワクワクしています…!心地よいリスペクトの関係ですね。つくり手の皆さんも楽しんでいらっしゃるのがわかります。

まとめ

前半の記事はここまで。

後半では、新興蒸溜所から輿水さんへの質問参加者の皆様からつくり手への質問の様子をまとめております。

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