あけましておめでとうございます。
新年1発目のCELLARRレポート記事は昨年12月に行われた第8回CELLARR SALONのレポート記事です。
ウイスキーファンなら誰もがご存知のつくり手のお二人をゲストにお迎えし、
応募頂いたファンの皆さまと共にウイスキーのオンライン社交場を開催しました。
参加者の皆さまのご質問をもとに、ファンのあらゆる疑問にできる限りお答えした今回のイベント。盛り上がりの様子を全3編にかけて公開します。
ぜひお愉しみください!
|ゲスト紹介
■ 輿水 精一
1973年、サントリー入社。多摩川工場でのブレンドグループを経て、76年より研究センターでウイスキーの貯蔵・熟成の研究に従事。85年より山崎蒸溜所で品質管理、貯蔵部門を担当した後91年よりブレンダー室課長となる。
一日に200種類以上もの原酒をテイスティングし、世界的なコンペティションでトロフィーを受賞した「響30年」(1997年発売)をはじめ、「山崎50年」「同35年」など、様々なサントリーウイスキーの開発・ブレンドに携わる。96年に主席ブレンダー、99年より「ウイスキーの品質を決める最終評価者」であるチーフブレンダーとなる。2014年より、サントリー株式会社名誉チーフブレンダーで現在に至る。
■ 肥土 伊知郎
1988年、サントリー株式会社入社を経て、1997年に父の経営する酒造メーカーに入社。経営不振により、その会社が営業譲渡され人手に渡る。廃棄予定のウイスキー原酒を引き取り2004年に有限会社ベンチャーウイスキーを設立。2005年に残された原酒をもとにイチローズモルトを発売。その後、軽井沢蒸溜所やスコットランドのベンリアック蒸溜所にてウイスキーづくりを学び、2008年2月より秩父蒸溜所にてウイスキー造りを開始。
その間、ワールドウイスキーアワードやウイスキーアドボケートアワードなど数多くの受賞歴があり、2019年には、ISC(インターナショナルスピリッツチャレンジ)にて、マスター ブレンダー オブザイヤーを受賞。
|ゲスト対談
ーー早速ですが、輿水さん、肥土さんと一緒にリラックスしながら始めていくようなことができればと思います。じゃあ、簡単にゲスト紹介とさせて頂ききます。肥土さんから、よろしくお願いいたします。
はい、ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎と申します。
今日はですね、ウイスキーマンの大先輩でもあり、元サントリーの先輩ということもあり、尊敬する輿水さんと対談ができるということで、緊張と共に大変楽しみにしておりました。今日はよろしくお願いします。
ーーありがとうございます。輿水さん、よろしくお願いします。
はい。肥土さんとなかなかゆっくり喋る時間っていうのは、ここしばらくなかったので、私自身も今日は非常に楽しみにしてました。よろしくお願いします。
ーーいい時間にしていけたらと思います。肥土さんのお手元は何で楽しんでおられますか。
イチローズモルトのモルト&グレーン、通称ホワイトラベルですね。ワールドブレンデッドウイスキーなんですけれども、それをハイボールで頂いております。
ーーありがとうございます。輿水さんはいかがですか。
私はね、元々家では角瓶しか飲まないんですけど、今日はやっぱり特別な日ってことで、山崎を入れました。
ーー嬉しいですね。ありがとうございます。本日は50名もの方にご参加頂いております。運営も緊張しているんですが、このような場を通してウイスキーはやっぱり楽しいなと思って頂くるように進行して参りますのでよろしくお願いいたします。
さて、今回は皆さんからたくさんの質問を頂いておりますので、最初にそちらを登壇者のお二人に回答してもらいながら進行するスタイルで参ります。それでは早速ですが、最初の質問です。
Q. ご自身がブレンドされたボトルの銘柄で、特に気に入ってるもの教えてください。
これは飲むシチュエーションとか、熟成年数とか、いろんな切り口でどのウイスキーもそのコンセプトの範囲内でベストを尽くしているので、なかなかその中でこれだよと選ぶのは難しいですね。
ただ、もうとにかく1番飲んでるよっていうのは今日飲んでいる、このホワイトラベルです。これはもうほぼ毎日のようにハイボールだったり、お湯割りで楽しんでいます。やっぱり毎日、自分が飲んでおいしいと思えるウイスキーをつくろうということで、ブレンドしているのがこのウイスキーです。そういった意味で、このホワイトラベルは気に入ってますね。
ーー肥土さんの日常のお酒がホワイトラベルっていうのを、皆さんもう知ってしまったので、皆さんもこれからホワイトラベルを飲むときは「あ、肥土さんも飲んでいるかもな」みたいに時間を共有することもできるかもしれないですね。ありがとうございます。
輿水さんはいかがですか。
そうですね。僕はもう現場のブレンドはやってないから、過去のものになってしまいますが、やっぱり色々ありますね。でも、現役最後の頃にやった仕事として山梨県の清里に『萌木の村』という所があるんです。そこで毎年夏、屋外でバレエをやるんですね。清里フィールドバレエといって、それがもう30年以上続いてるのかな。
そのバレエの25周年記念にウイスキーをつくってほしいと、その萌木の村の社長から依頼がありました。
で、やっぱりつくる以上は、実際に自分がバレエを見てみないと、どんな中身をブレンドしていいかわからないので鑑賞させてもらったところ、随分感動したんです。屋外にも関わらず、とても本格的で。その自分のイメージをそのまま中身にするという、なかなか楽しい仕事をさせてもらいました。
25年目は私がやったんですが、26年目以降は肥土さんがそれを繋いでやってくれてるんだよね。それもね、僕にとっては非常に嬉しい話です。
ありがとうございます。いえいえ、輿水さんを引き継いで手がけさせて頂くというのが、めちゃくちゃプレッシャーでしたので、精一杯がんばりました(笑)。
僕も萌木の村は毎年行くので、あの26周年以来、毎年行ったら飲ませてもらってますけれど、やっぱり素晴らしかったですね。本当にいい原酒をたくさん持ってたんですよね。
ありがとうございます。もう本当にあの屋外バレエっていうのも素晴らしかったですし、25周年のウイスキーも素晴らしいものをつくって頂いていたので、もうなんとかその流れを止めないようにということで頑張りました。
ーーめちゃくちゃ痺れますね。いい話でした。ありがとうございます。
ちなみに輿水さんがメーカーの正規商品でなく、この萌木の村でのウイスキーを挙げられたのは何か理由があるのですか?
いや、サントリーのブレンダーとして仕事をするってことは、あたりまえですけれども、定番商品がいくつもあって、その定番商品の味をどうやって維持するとか、長期的にどのように品質を上げていこうかとか、全てではないですが、そういうところからスタートすることが多いんです。それに対して、あのフィールドバレエの25周年記念ウイスキーは全くプライベートなので。使用する原酒には制約はありますが、どのような味にしたいかに関してはフリーだったんです。
それで、どんなものにしたいかっていうところを自分の中で一から組み立てて、それをやってみることは本当に面白いしで、面白いだけじゃなくて、実は1番難しかったかな。その完成度、どんなものが出来上がるかってことに関しては自分の責任だったので。
ブレンダーのトレーニングとしては、こういうプライベートウイスキーで、いかに高品質で喜んでもらえるものをつくれるか。これはブレンダーとしてのスキルを上げるといった意味でも、絶対やるべきことなんだろうなと思いながらやってました。
ーーそれまでは大企業で、いろんな制約・条件の中でつくるというところから、輿水精一という1人の男としてのクリエイティビティを試すような、新しい挑戦の中で生まれたウイスキーなんですね。
そうですね。きっとバレエが好きだからこのウイスキーを買う人も結構多いと思うんです。そうすると、その人たちって、あんまりウイスキーを知らないかもしれない。そういう人たちにもウイスキーって美味しいんだよっていうイメージを伝えられるものをつくりたいなと思っていました。
ーーはい、肥土さん、今の輿水さんの話を受けていかがですか。
いや、本当に素晴らしいなと思います。私も最初はその何周年記念だから、熟成年数がそれに近いものとかも考えていました。
白鳥の湖だったらどんなイメージでとか、ドンキホテーテだったら、こんな感じかなみたいな。味とか年数だけじゃなくて、その演目とどういう風にシンクロさせるのか、みたいなことも意識をしながらブレンドするような部分もあったりして、とても難しかったです。
ーーイメージがつかないです(汗)。
バレエという芸術作品を表現するにあたって、新たに感じたことなどありますか?
もの凄く、刺激にはなりました。というのも、今までは私自身やっぱりウイスキー一筋だったことが自分の誇りでもあったんです。
でもこのフィールドバレエに関わる仕事を通して、ウイスキー以外の芸術作品なども幅広く知っていくことがブレンドの仕事へ良い効果があるということを、元々薄薄気づいてはいたんですが、より強く意識するようになりましたね。
そこでうちの若いスタッフにはなるべく、芸術、文化、園芸のようなものにたくさん触れて、それをイメージしながら、それを味に反映していくような、お客様に伝えていけるようなブレンダーになってほしいです。
自分は若い年齢のときにそれをやってこなかったけれども、これからの若手に関しては、しっかりとそういった感性を刺激するようなことを若いうちからやってほしいな、というふうに伝えるようになりましたね。
ーー輿水さんもよくいろんな分野の人との交流を通して、考え方を知って、もっとおいしいものをつくってくんだ。みたいな話はされてたのでそれがまた肥土さんと輿水さんの間でね。この時間で共有できてるっていうのに、すごい幸せを感じるなと僕も思いました。それでは質問2問目に参りたいと思います。
Q. ウイスキーが人々を魅了し続けるポイントはどこだと思いますか。
そうですね、僕はウイスキーに関わって来年で50年目を迎えるんですが、でも、元々スタートはブレンダーじゃなくて、樽とか貯蔵熟成とかを研究所で研究していたという自分のキャリアもあるんで、やっぱりウイスキーの最大の魅力ってのは、熟成の魅力なんだろうなと思っています。
その熟成のうまさを最大限いい形で表現するのが、いわゆるブレンド技術だと思っているので、やっぱりウイスキーの魅力ってのは、そこに1番凝縮されてるんだろうな、という風に思ってます。
ーー熟成っていうキーワードですね、ありがとうございます。
肥土さんはいかがですか?
ええ、もうウイスキーの本質である、熟成ですね。輿水さんと同じ考えです。
ウイスキーの味を表現するときに、例えば、バニラのようなフレーバーっていう表現ってよく出ますよね。
それってリキュールみたいなもので、熟成をさせなくても香り付けすることってできると思います。でも、やっぱりそれは樽の中で時間をかけてつくり出されたバニラフレーバーとは確実に違いますよね。
やっぱりそれが時間の重みってものがつくり出した味わいなんじゃないかなと。これをウイスキーの中に感じられるっていうのが、ウイスキーが持ってるロマンであるし、おいしさなんだろうなっていう風に思っています。
ーーバニラフレーバーのウイスキーを飲みたくなってしまいますね。
ありがとうございます。次の質問に行きましょう。
|まとめ
第1回記事はここまで。続いての第2回記事では、ゲストのお2人が考えるお湯割りに適するウイスキーの条件やスコットランドで注目している蒸溜所についてお聞きしました。以下のボタンより続きもご覧ください!
ここから先は、会員のみお愉しみ頂けるコンテンツです。
会員でない方は、こちらから会員登録(無料)をお願いいたします。
主に20代のウイスキーが大好きな若手で構成される編集部です。さまざまな蒸溜所、つくり手、ファンの方々との交流をもとに、これからのウイスキー業界を盛り上げる活動を続けていきます。Twitterも発信中。フォローは以下のアイコンをクリック!
記事のご感想やご意見など、コメントにて頂けるととても励みになります^^/
コメント