「原料からみたウイスキーの魅力」ニッカウヰスキー顧問が語る原料部時代の経験とは【第1回/全3回】

「ブラックニッカ」ウイスキー好きなら誰しもが一度は聞いたことがあるウイスキーブランドではないでしょうか。

今回はそんなウイスキーブランドを有するニッカウヰスキーの顧問である佐久間正氏に、原料部時代で培った経験についてインタビューしました。

ぜひお楽しみください!

1. ウイスキーと原料の関係性とは

ーー
早速ですが、当時原料担当をしていらっしゃった際のお話をお伺いしてもよろしいでしょうか。

佐久間さん(以下敬称略):
我々がつくるのはスコッチタイプのウイスキーなので、原料として使うのは大麦麦芽ととうもろこしだけなんですね。特殊なものでいえばライ麦などをつかったこともあるんですけれども、基本はその二つ。

とうもろこしは基本的にはアメリカ産のUS#3を使っています。それに関しては、コーン油も飼料をつくっているところも全部US#3を使っているので、選択の余地があまりないんですね。グレーンウイスキーに関してはない。

大麦麦芽の場合も基本的に海外から輸入したものを使います。昔は国産の大麦を買ってアサヒビールモルトに渡して麦芽を作ってもらっていました。輸入麦芽の関税割当(国内のビールとウイスキーの会社に割り当てられている)の枠をもらうためには抱き合わせで国産大麦を買わなきゃいけなかったんです。農業の保護政策です。国産はどうしても値段が高く輸入品の3倍くらいです。当時の国産大麦は輸入品にくらべると、アルコール収率が低かったり、麦芽にしたときの安定性が低いところがありました。平成元年くらいにウイスキーがすごく落ち込んだとき以降、ビール会社がウイスキー会社への割当分もすべて購入するようになってから、しばらくのあいだ国産麦芽の使用はありませんでした。

佐久間さんご本人(出典:ニッカウイスキー)


ただ、原酒のクオリティに関しては、麦芽による良し悪しってあまりないですね。品種の違い、産地の違いや麦芽工場の違いなどによってできる原酒の品質が違います(良し悪しでなく)。原酒に違いがでるのはブレンダーにとってはいいことなんですね。色んな色の絵の具が持てるという意味で。

ブレンダーとしては絵の具を多く持っている方が重要です。

この麦芽が良い原酒をつくるからいっぱい買おうということはあんまりないです。価格も重要ですが、モルトスター(製麦会社)によって価格がそこまで変動することはあまりないです。ある時この工場が少し安いから多めに買っておくということはありますが。そういう意味で複数のモルトスターから買っています。

次に重要な要素は「アルコール収率」ですね。これは後追いになってしまうんですけれども、例えばこの年は当たり年で収率が高い、ハズレ年は低いなど。これから製麦するものを先に値段を決めて買ってしまうので、買ってから、結果としてここのモルトは収率よかったよねといってわかるんです。

あと一つ重要なのは作業性ですね。工場で麦芽を使った時の糖化工程のやりやすさ、濾過性が悪いと工程ですごく時間が余計にかかってしまいますので。ときどき新しいモルトスターから麦芽を買ったときに工場から「ここの麦芽はもう勘弁して」ってくるんです。そういったケースでは、そこの麦芽は翌年からもう買わないという形になります。

――
そうなんですね。とうもろこしはアメリカ産以外のものも仕入れたことがあるんですか?

佐久間:
南アフリカ産や中国産を買ったことがあります。中国産はアメリカに比べると少し安かったんですが、想定よりも収率が低く翌年からは仕入れませんでした。

南アフリカ産は他と比べて値段は高かったのですが、アルコール収率が高かったので、買いという判断で仕入れていました。要するに、品質よりもできるお酒の量が値段に見合っていたんですね。しかし、あまりたくさんは流通していなかったんです。やっぱり世界的に見たらとうもろこしの生産はアメリカがトップでしたので、結局アメリカに落ち着きました。

2. 国産大麦と海外産大麦の違い

ーー
モルトスターの話で、例えば仕入れるときってどこの大麦なのか開示ってされているんですか?

佐久間:
工場のある周辺がやっぱり一般的ですね。たとえばイングランドのモルトスターならイングランドの大麦をつかうのが普通ですね。

ーー
なぜ外国産の大麦の方が優れているのでしょうか。

佐久間:
日本はどちらかといえば、食用の六条大麦がビール用の二条大麦より発達しているんですね。ヨーロッパって麦芽か果実が原料のアルコール飲料の消費量が多いじゃないですか。なので、アルコール収率などをもとめて二条大麦の品種改良を毎年のように重ねています。醸造効率がいいものを求めて改良を重ねるスピードが日本に比べると早いんですよね。

ーー
しかも国産の大麦は値段が高いと。

佐久間:
そうですね。まあ、仕方ないとは思います。国産米なんかも高いですよね。ビール会社に割り当てられる大麦は国の補助金とかはない価格で買いますから、価格差が2倍3倍にもなってしまうんですね。

国産の米は少々高くてもやっぱり美味しいから買っている人はたくさんいますし、うどんの小麦だってオーストラリア産が広く使われていますが、国産にこだわって使っているところもあれば、品質的に安定している外国産を使っているところもある。それはまあ選択ですよね。

ーー
欧米での農家さんに対する促進補助はあるんですかね。

佐久間:
あるとは思います。
海外の事例で1番大きいのはスコットランドのグレーンウイスキーです。昔はアメリカ産のとうもろこしを使っていたんですが、EUの農業保護政策によってアメリカのとうもろこしをストップさせるために関税をガーンとかけた。その代わり、EU内のとうもろこしや小麦に関しては値段を下げますとした。そうするとEU産小麦の値段が下がってスコットランドのメーカーはグレーンウイスキーの原料を小麦に乗り換えたんですね。

ーー
なるほど。とうもろこしから小麦への変化って品質に影響はなかったんでしょうか。

佐久間:
とうもろこしから小麦っていう変化はかなり影響あったと思いますね。まあ原料の変化という意味から、昔のグレーンと今のグレーンを直接比較したことはないですけれども、おそらく相当品質は変わっていると思いますね。

ーー
国産の大麦と海外の大麦に味の違いなどはあるのでしょうか?

佐久間:
おいしいまずいではなく、ものが違うというのが我々にとってはプラス、要するに味が違う原酒が欲しいんです。
最近になって、北海道産の大麦を買って麦芽にしてモルト原酒を作るということもやっていますし、宮城県の希望の大麦っていうアサヒビールがやっている、被災した土地に大麦を栽培しているプロジェクトの大麦も収穫量が増えてきたので、そこの大麦を使ってアサヒビールモルトで麦芽にしてもらって、宮城峡の工場で使おうっていう話も進んでいます。

(出典:希望の大麦プロジェクト)

ーー
国産の大麦で例えば地域ごとにここのモルトで作った原酒は味が違うとか、地域ごとでの特徴ってあるんですか。                                       

佐久間:
あるとは思います。特に最近のクラフトメーカーさんたちは蒸溜所の周りで原料を集めて原酒をつくるとか、地域性を生かしたウイスキーづくりをやるっていうことが多いですよね。スコットランドでも結構やられていて、アイラの蒸溜所はアイラのモルトを使って原酒を作ったり、世界的に地域の風土を生かして作るっていうのは流行っている。先程のように、北海道の大麦を使ったり、宮城の「希望の大麦」を使おうとしているのも、そういった地域のものという話題性を生かすことができるということで始めました。

気候だとか土壌だとかなどの条件によって、できる原酒の品質は異なると思いますが、例えば新潟のこしひかりと他のこしひかりの味がどの程度違うとかの話であって、大きく味や品質が変わるということはないと思います。こっちのほうがいいとか、こっちがだめとかはあまりないのではないのかなというのが個人的な意見ですね。

ーー
まあデンプンの含有率が1番ということですね。

佐久間:
まあそれが1番ですからね。良し悪しという品質に関しては大きな差がないと思うので。


ウイスキーの原料のお話、特に麦芽の種類によって原酒のクオリティが決まるわけではないなど興味深いお話ばかりでした。
次回は、佐久間さんに原料部時代の経験やウイスキーづくりでこだわっている点などについてお話しして頂きます。お楽しみに!

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