アルコール飲料にはさまざまな種類があります。
例えばビールはサラリーマン、ワインは奥様、焼酎は九州男児、のようなイメージをお持ちの方もいるのではないでしょうか。筆者もウイスキーというとかっこいいおじさん(?)を想像してしまうのですが、実際にウイスキーはどんな方に好まれているのでしょうか。
今回の記事では、ウイスキー作りの裏話もふまえながら、ウイスキーの嗜好性の特徴を輿水精一さんに伺ってみました。
輿水 精一とは:
日本が誇る世界的ブレンダーのひとりで、イギリスで行われる世界が注目するコンペティション「ISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)」では2004年から11年間審査員を務めるなど、世界でウイスキー業界の発展に従事する。
手がけたウイスキーはこれまでさまざまな賞を受賞し、世界的なウイスキー品評会「WWA(ワールド・ウイスキー・アワード)では2011年に「響21年」が世界最高のブレンド賞「ワールドベストブレンデットウイスキー」を2年連続で受賞する。
2015年には、アジア人で初めて業界も認める権威あるウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」が長年に渡りウイスキー業界において特筆すべき貢献を果たした個人に贈る栄誉ある賞「Hall of Fame」を受賞し、「ウイスキー殿堂入り」となる。
現在はサントリー名誉チーフブレンダーとして、ジャパニーズウイスキーをより高める活動に取り組む。
1.男性と女性、どちらがウイスキー好きなの?
ーー本日はよろしくお願いします!今回のインタビューでは「ウイスキーは男性と女性どちらに好まれるのか」についてお話しできたらと思っています。
私の勝手な想像としては、ウイスキーは女性と比べると男性ファンの方が多い印象があるのですが、いかがでしょうか?
一般的にはそうかもしれません。
しかし、若い女性が1人でバーで飲んでいる姿を見かけることもあります。そういった女性の方々が飲まれているのがスコッチのアイラモルト、なんて話も耳にしますし、女性の中にも結構パンチの効いたウイスキーが好きという方はいます。
ーーそうなんですか!輿水さんはそういった女性ファンを意識してウイスキーをつくられたことはあるんですか?
確かに、消費の場で女性の意思決定権は絶大ですからね。ウイスキーがダウントレンドの真っただ中にあった頃、男性だけでなく女性にも飲んでもらえるような商品でなければ、この先も簡単には市場は回復しないだろう、とは思っていました。そのため、女性に美味しいと言ってもらえるウイスキーとはどんなものだろうかを真剣に考え、結果として香りの華やかさやまろやかさ、フルーティさをイメージして甘口のウイスキーを試作したこともあります。
ーー確かに、そのような特徴だと女性が好みやすいんじゃないかなってイメージは僕の中にもあります。売れ行きはどうだったんですか?
それがですね、最終的には商品化に至りませんでした。試作段階で女性の評価を得られなかったんですよ。
ーーえ、なんででしょう!
女性向けウイスキーといった瞬間、拒絶反応があったんです。
試飲した女性の声を聞いてみると、女性だから香りの華やかさ、まろやかさ、フルーティな甘口のウイスキーに興味があるといった決めつけは迷惑、余計なお世話ということらしいのです。
これはあくまで、ある程度ウイスキーを愛飲している人の意見かもしれないけど、私はウイスキーが好きなのであってウイスキーに女性用、あるいは男性用なんてものはない、と言われたのを覚えていますね。
ーーへえ…逆のイメージを持っていました。例えば、ビールは苦い、飲みにくいという印象から好む女性が少ないことは割と一般的だと思っています。ウイスキーに興味を持たれる方は、そのような飲みやすさなどを気にされる方は意外と少ないということでしょうか?
そうですね、そういうことを気にする人はRTD(レディ・トゥ・ドリンク:この文脈では、購入後すぐに飲める缶やビンのお酒の意味)を飲み、ウイスキーにはあまり手を出さないかもしれません。
ウイスキーを飲まれる方の意見としては、男女関係なく「私はウイスキーが飲みたい」という想いに集約されるようです。作り手が勝手に「〇〇はこんなテイストを好むだろう」と消費者に擦りよる形でウイスキーをつくっても、全く消費者から関心を示されない気がします。
これは私が極端にウイスキー離れが進む中でブレンダーとして仕事をしてきたからかもしれませんが。
ーーそう言った意味では、ウイスキーは人を選ばないお酒なんですね。
「私はウイスキーが飲みたい」という意見は、ある程度ウイスキーの魅力を理解されている方に限定されます。でも結局はそういったウイスキーファンがウイスキー市場を引っ張ってくれます。
一方で、銘柄は関係ない、ハイボールでワイワイ楽しめればいい、という人は、トレンドがある程度できてから追随してくるといいますか、ハイボールを飲むシーンの楽しさの訴求や、試しに飲んでみた時の飲みやすさや、思ったより美味しいという驚きを体感してもらうことが大事なのでしょう。
ただ、最初にこれがうまい、と周囲に情報発信してくれるコアなウイスキーファンは、とってつけたようなコンセプトでは通用しないよな、という感覚はあります。
ーーなるほど。お話を伺っていて、女性が好みやすい印象のお酒としてワインを思い出しました。もちろん使用されている材料や製造方法は大きく異なるのですが、何かしらウイスキーとの共通点を感じることはありますか?
ウイスキー消費者の話を聞いてみると、男性と比べて女性は、単純な味や香りだけではなく製品の背後にある物語に興味を示しやすい傾向がある気がします。
ワインもきっと同じ理由なのですかね。歴史や産地やぶどうの品種、つくり手など、どんな過程を経て造られたか、その過程を想像し、色んな人から話を聞きつつ、自分の味覚感性をすり合わせて楽しむ、実はそういう要素はウイスキーも非常に強いのです。
裏を返すと、そういう物語性というか、深掘りできる、学べる要素がないと、コアなファンの関心を惹きつけることはできません。作り手として、そういうところはかなり意識しています。
ーーとても細かいところまで考えられているのですね。ストーリーもしっかり組み立てた上で準備していくと、誰に向けたウイスキーというよりも、ファンが自然と惹かれるようなウイスキーになると。
そう言った意味では、創業者の目指したもの、理想の味わいをブレることなく追求し続けることが重要で、そこから説得力あるメッセージが自然と生まれてくるのではないかと思います。ウイスキーづくりは歴代のつくり手達の思いの積み重ねで成り立っていますね。それを加味すると、新規性のある味だけ最初につくってしまって、あとからキーワードというか、語る言葉を考えるのは正直とても無理があるんです。後付けだと大概はとってつけたようなワードしか出てこないです。最初の段階から語る言葉を意識していないと、メッセージ性が強くファンに響く商品は生まれてきません。
ーーなるほど、、、性別や出身地域など消費者のステータスに関係なく愛される、世界で通用するウイスキーの本質が見えたような気がします。
主に20代のウイスキーが大好きな若手で構成される編集部です。さまざまな蒸溜所、つくり手、ファンの方々との交流をもとに、これからのウイスキー業界を盛り上げる活動を続けていきます。Twitterも発信中。フォローは以下のアイコンをクリック!
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