ウイスキーのオンライン社交場 CELLARR SALON。
今回のゲストは、クラフト蒸溜所のつくり手とバーテンダー。
それぞれの地域でウイスキーフェスティバルの運営として、つくり手とファンの橋渡し役をされてきたこのお二人です。
■ 有限会社津崎商事/久住蒸溜所 取締役社長
宇戸田 祥自 氏(つくり手紹介はこちら)
■ ウイスキーハーバー神戸実行委員長
BAR芦屋日記オーナーバーテンダー
草野 智和 氏 (ウイスキーハーバーHPはこちら)
知る人ぞ知る、期待のクラフト蒸溜所、久住と神戸の高級住宅地芦屋に構える一軒のバー。
そこにはどのようなストーリーがあり、お二人はウイスキーのどのような未来を見据えているのか。
毎回、ウイスキーが大好きな限定15名をご招待する、CELLARR SALON ウイスキーの杜。
お愉しみ頂いた今回の様子もご覧ください。
お二人の出会い
辻(ファシリテーター):
本日はよろしくお願いいたします!
早速ですが、お二人の出会いを草野さんからお聞きしてもいいですか?
草野さん(以下敬称略):
今日がずっと愉しみでした!芦屋日記の草野と申します。よろしくお願いします。
宇戸田さんとの出会いは僕が福岡ウイスキートークというイベントの運営のサポートを始めたことでした。ウイスキートーク(以下「WT」)はベンチャーウイスキーさんを紹介するためのセミナーから始まったんですよね。
宇戸田さん(以下敬称略):
はい。ウイスキートークは12〜3年前からやっていて、Bar Higuchiの樋口さんという方が表役で、
私は裏方でした。ベンチャーウイスキーさんには最初からウイスキートークボトルを出して頂いています。
草野さんのお名前は存じていたのですが、神戸から福岡に来て、お手伝いされているのが不思議でした(笑)。しかし、最初から的確な指示でまわりを巻き込まれていて、自身もよく動かれていたのでさすがだなあと思いました。当初からメインメンバーのようでしたね。
辻:
そうだったのですね。今年はウイスキートーク開催されないんですよね?
宇戸田:
はい。今年は開催しませんが、来年は予定しています。
草野:
今では2,000人が集まるイベントですものね。
宇戸田:
初めて肥土さんにプライベートボトルを出して頂いた時が懐かしいですね。
そのボトルでさえ、とても美味しかったのに、1年半売り切れなかった時代でした。
今となっては考えられないです。
草野:
僕、その当時のボトルの「ニホンオオカミ」、実は2本持ってるんです。
樋口さんの常連の方がたまたまうちも懇意にしてもらっていて、1本購入してくださったんです。それがとても美味しかったので、もう1本欲しいと問い合わせたら買えました。
話は外れましたが、ウイスキートークの運営は大変でしたね。
主催の樋口さんはムチャ振りが得意で、ウイスキートークが秩父ウイスキー祭に出展した時には、
「神戸は秩父に近いよね?草野くん、前乗りして準備してよ〜」って(笑)。
いや、福岡よりは近いけどそんな変わらんやろ!?みたいな会話をしました(笑)。
そこで宇戸田さんと秩父に前日入りして、焼き豚を一緒に食べていたときに、
宇戸田さんの蒸溜所を立ち上げたい想いを打ち明けてくれました。
宇戸田:
はい。本気でした。
幸運にもウイスキーづくりに向けて、肥土さんに2017年から教えを頂きました。
2015年からずっと修行をお願いしていたのですが、肥土さんの返事はうやむやで(笑)。
最後は半ば強引に「修行させてください!」と受け入れて頂きました。
今となっては、私の本気度を確かめられていたのかなと思います。
研修では、明け方から夕方まで現場で修行、その後は従業員のどなたかと一緒にBARへ。夜中1時くらいまで飲んで、また次の明け方から修行といったスケジュールを繰り返していました。
現場では素人だった私に対して1つ1つ丁寧に教えてくださいました。
ベンチャーウイスキーが何を目指されているのか、つくりでの機密情報なども隠さず教えて頂き、失敗できないと思いました。肥土さんは私の覚悟を試されていたのだと思います。
辻:
いい話ですね。先輩からの伝承を必死に受け止め、つくられているのですね。
草野さんも芦屋日記は先代から受け継いだものですものね。その話もお聞きしていいですか?
草野:
僕はですね、お店自身は36年やらせていただいてるんですけど、僕自身が当時のオーナーに弟子入りしたのが26年前です。
そして師匠から、「もうお店を君にあげるよ」って仰っていただいたのが14年ぐらい前でして…
辻:
ちょっとまって下さい、お店をあげるよってどうゆう感じなんですか?
草野:
まあ長い間頑張ってくれたから「芦屋日記」の屋号は君のものだ!みたいな。
譲っていただいたんです。
ただ、当時スコッチのボトラーズブランドがすごく乱立していた時代なんですね。
僕たちがバーテンダーになった30年前って「ケイデンヘッド」や「キングスバリー」とか一部のボトラーズブランドを押さえておけば良かったんですけど、その10年後くらいからブランドが乱立しはじめて、海のものとも山のものとも分からないものも多かったんです。
その時に、芦屋日記でも「目玉」のウイスキーが欲しいなと思っていて、たまたま大阪で三陽物産さんの試飲会があったんですけど、そこで聞いた事もない「イチローズモルト」というウイスキーを見つけて、「何やろな?」と一口試飲させていただいた時に衝撃を受けたんですね。
「何だこのウイスキーは!」と。
そこでは限定生産と書かれていたので「あと何本あるんですか?」と聞いたら、6本あるとの事だったので「じゃあ僕これ全部買います!」と全部買ってきたんです。
その時に目の前に居たのが、肥土伊知郎さんだったんですよ。
僕それも知らなくて、その当時のストーリーを伊知郎さんはよく話してくださるんです。
売れない売れないと言っていた当時に、一気に6本も買わせて頂いたので(笑)
「これは絶対に他の人に薦めなきゃ!」って思ったのを今でも覚えています。
当時は、周りのバーテンダー達に、「そんなに売れるの?ウイスキー」と良く聞かれました。
「いや、全然売れへんけど…でもおいしいやんか!」みたいな(笑)。
「売れへんのに、そんなに買ってどうするんよ」とは言われてたんですが、どんどん買っていったら、今となってはうちには126種類のイチローズモルトがあります。
宇戸田:
凄いですね(笑)。
草野:
まあ、これは関東と違うってのが大きいんです。
関西の住宅地なので、イチローズモルトの事を知っていてもリーフシリーズくらいしか出ません。1ショット3,000円近いシングルカスク系を飲むってのは、住宅地のお客さんはちょっと違うんですよね。
それでも芦屋日記では、出る度に買うので、これほどまでになりました。
話が長くなりましたが、今回の参加者の皆さんは、多分僕の話より参加者の皆さんは久住の未来が聞きたいんじゃないかと思うのでお返しします(笑)
辻:
僕はこれは久住の未来に繋がる話だと思います。
草野さんの凄い目利きと、肥土さんとの出会いの話と、多分二人ともウイスキーを知るって意味で、肥土さんが師匠みたいな存在って共通点があるなと感じました。
ここは逆に草野さんの師匠が草野さんに、「きみ頑張ってくれたからもうお店譲るよ」と言ってくれた師弟関係のように、肥土さんと宇戸田さん、また宇戸田さんと久住の若いつくり手の方達の関係性も時間を超えていくんだろうなと思うと感慨深いものがありますね。
「久住らしい」ウイスキーづくり
辻:
お待たせしました!いよいよ、久住蒸溜所についてお聞きできればと思います。
まずは、6月20日に発売のニューボーンを受けて、今の状況を教えて頂けますか。
宇戸田:
ニューボーンは飲食店向けに先行販売をさせて頂いております。いま色々と反響、反応が聞こえてきております。思いのほか良く評価していただく方が多いなという印象です。
僕らとしては、おっかなびっくりと言いますか、ここ何年間か、たくさんのクラフトメーカーが増えたので、食傷気味な飲み手の方もいらっしゃるのかなと。
ニューボーンは今飲んで美味しいと言うよりは、あくまでも名刺代わりで、僕らの方向性をお伝えする、そう言った商品なので、どういう反応があるのかなと、愉しみよりも怖さの方が大きかったです。
今のところは少しホッとできる評価をおかげさまで頂いております。
ただ草野さんから「何やっとんじゃ」と怒られるかなと、若干怖かった部分はありますね(笑)
辻:
僕もこの前芦屋日記にお邪魔した時に頂いて、とても良かったのです!
草野さんご自身や、お店での評価はいかがですか。
草野:
いい意味で凄くオーソドックスだなと思いました。気を衒(テラ)っていない。
野球で例えるなら、すごく綺麗な回転の良いストレートを投げるピッチャーだなと。
あとは宇戸田さんが仰る通り、どう時間経過させていくか、それは久住の風土だと思うし、ニューメイクが美味しいのは、絶対に良い材料を使って真面目につくらないと出来ないことなんですね。
初めて出た7ヶ月熟成のニューボーンは、新しいスピリッツの良さを愉しめる、ここから熟成させていく愉しみを感じ、夢が広がる感じでした!僕は凄く愉しみです。
宇戸田:
ありがとうございます!嬉しいです!
辻:
こんな話聞いたら皆さん飲みたくてしょうがなくなっちゃいますね(笑)
このニューボーンはどうやったら飲めるんですかね?
宇戸田:
日本国内では、1,000本ほど出荷をしております。
1,000本って多いように聞こえるんですがそうでも無く、特約店や酒販店、そこからウイスキーを頑張っているBARに優先的に入るようにお願いしており、そこからの発信に期待しています。
なので、SNSなどをチェックして探していただけると、見つかるかとは思います!
辻:
宇戸田さんが仰るように、限られた本数しかないので、それを大事に扱ってくださっているお店で口に出来るかも知れないですね。
ちなみに芦屋日記は何本か仕入れられているようですよ!
お近くの方は行ったら飲めると思います。
草野:
ありがとうございます(笑)
辻:
久住蒸溜所として、どんなウイスキーをつくっていきたいか、展望をお聞きできますか。
宇戸田:
まず、我々の目指すウイスキーは正にオーソドックスで、ベンチャーウイスキーさんや本坊酒造さんのように、伝統に忠実に、古い製法をどう日本の風土にどう合わせるかを微調整しながら、でも根本は守って、結果産まれるものこそが「個性」と言うように、僕らも薫陶(クントウ)を受けたので。
じゃあ久住っぽさは何かと言うと、今まさに模索しています。
1年間やってみて思うのは、凄く水が豊富で水温が低いため、僕らが思っていたよりも、やや酒質が重いのが特徴かなと思っております。凄くボディが厚いと言うか。
じゃあその厚いボディを、どういった樽で寝かせるか、短い熟成の物はどうするか、長い熟成のものはどういった仕込みをしたら良いのか、現場も含めて注意深く仕込みしています。
この酒質を、これからどう活かしていくかが自分達の腕にかかっているのかなと思っています。
でも先ず基本は古いスコットランドの製法、樽構成もなるべくオーソドックスに、その限られた枠組みで。スコットランドのウイスキーづくりの法律はとても厳格ですが、あれだけの豊かな個性があるのを踏まえると、そこを守った上でどのような個性を出せるかに挑戦をしたいです。
この重い酒質や熟成環境をどう活かせるかって部分を模索していく中で、いわゆる久住のハウススタイルはこうだよね、個性はこうだよね、と10年後くらいに感じてもらえると良いなと思ってます。
辻:
現在、ウイスキー業界は盛り上がっていますが、ウイスキーファンがびっくりするような「なにこれ?」というものも正直あると思います。その点はどうなんでしょう?
草野:
僕は歴史が好きで、ウイスキーの歴史を見るのも好きなんですが、今から200年前にアイルランドには100を超える蒸溜所があったんですよ。
でも今はたった4つしか残ってないんですね。
何があったか、激減の原因は1,900年初頭のアメリカの禁酒法です。
禁酒法時代にアメリカの闇市場で粗悪なウイスキーにアイリッシュウイスキーのラベルを貼って売ることが横行しました。当時は生産量世界トップだったアイリッシュも、粗悪なウイスキーが市場に出回ったことで、禁酒法が明けた時には、アメリカ人の中で「アイリッシュウイスキー=不味い」と刷り込まれてしまい、アイリッシュウイスキーの衰退に繋がったそうです。
この歴史を、日本のクラフトメーカーにも、意識してもらいたい。
このブームにだけ乗っかれば良いやと思ってると、危ないなと思います。
宇戸田さんも自分が死んだ後の事も考えて「久住」って言うブランドを立ち上げられている。
そこまでの気概を持って「つくり」に向き合っている日本の生産者は、今どれほどいるんだろうって感じます。
ウイスキーは歴史を紡いでつくっていくものだと思うので、「自分のところだけ良ければ良いやんか」という人には、僕は携わって欲しくない。
宇戸田さんからは、逆にそれを一切感じなかったんです。
逆に、ピュアすぎてこの人大丈夫かなって(笑)
宇戸田:
恐れ多いです。草野さんの期待にお応えできるよう、これからも精進していきます。
ジャパニーズウイスキーの未来
辻:
当時の様子も振り返って、これからのジャパニーズウイスキーの未来はどうなるとお考えですか?
宇戸田:
10年前の今頃を思えば、なんだか別の惑星に来たような感覚を持ってます。
当時はウイスキーを売ってますと言えば「変わっているねえ」と言われましたし、飲んでると言えば「何が美味いの?」とか言われてましたから。
まさかこんなに風に変わっちゃうのかなと。当時、ウイスキーつくってますと言っても、皆さん「へー、あっそ」みたいな方が結構多かったんですよね。
今は、同じことをいうと、皆さんとても優しく応援してもらえる。僕は冬の時代の方が長かったので、今の方が違和感を持ってます、いい意味でも。
ありがたいのですが、今自分は凄い事をやってるとは全く思っていません。
逆にベンチャーさんや本坊さんの凄さ、冬の時代にウイスキーづくりを始めて、今も世界から評価される物を産み続けるパワーや苦労。むしろウイスキーつくりを始めたが故に、そういった業界を引っ張るメーカー様の偉大さを改めて知りました。
我々はニューボーンを僅か3,000本を製品化するだけでも、どれほど大変かを思い知りました。例えば、ラベルは一枚ずつ手張りをしたんですけど、夢の中でも貼ってましたね(笑)
そういったご苦労を皆さんがされているので、ある意味僕は、近づいたというより、
「遠さが分かった」というのが今ですね…
日本国内でメーカーさんが増えてて、選択肢が増えてるのは良い面でもありますが、ウイスキーが買えない、高い、どこで売ってるか分からない、そんな期間はあと僅かだと思ってます。
今後いっぱいウイスキーは出ます。もちろん良い物、悪い物、選択肢は多いと思います。
久住が目指すのは、ファンの方がウイスキーを10本買うときの選択肢に入ること。それができなければ、久住は100年持たないかな、もしかしたら10年後ないかも知れない。そんな危機感を持っています。
今、スコットランドには蒸溜所が沢山あります。20年前にはウイスキーが詳しい人でも、パッと言える蒸溜所は20箇所程度で、そういった蒸溜所は全て100年続いているメーカーなんです。
日本のクラフトも最後は20年前のスコットランドのように、20箇所とか、そうなっていると思うんです。そんな怖い将来の方が、僕には大きく見えています。
誰が良いウイスキーをつくるのかは分かりませんが、それを考えた時に皆さんの脳裏に浮かぶ蒸溜所を目指しています。
草野:
僕も久住蒸溜所の今後がとても愉しみです。
辻:
お二人とも今回は貴重なお話をありがとうございました。
魂の震えるような、強い想いを感じました。
このあとは参加者の皆さんとフリートークです。
質問をもとに、ゲストとの交流をお愉しみください!
フリートーク内容は、イベントに参加してのお愉しみ。
宇戸田さんのウイスキーづくりでのこだわりや細かい技術の話など、
ウイスキー好きにはたまらない内容が飛び出しました。
気になる方は、ぜひ次回CELLARR SALONへの応募をお待ちしております^^
7月のイベントも近日中に公開予定。
みなさんもご存知のつくり手が複数登壇予定です。ぜひお愉しみに!
まとめ
今回のイベントでは、ウイスキーづくりや歴史からくる業界の未来をお話しました。
つくり手とバーテンダーという二つの視点からお送りした今回のイベントに対し、
参加者の皆さんからもたくさんの嬉しいお声を頂きました。
イチローズモルトを売れなかった当時から取り扱う草野氏も注目する久住蒸溜所。
6月20日に発売したニューボーンを筆頭に、これからどのようなウイスキーを出されていくのか、期待に胸が高まります。
皆さんもお話を聞きたい蒸溜所やつくり手、バーテンダーの方などいらっしゃいましたら、
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