はじめに
前回の記事では、ノンピートモルトの購入を決意した佐久間さん。しかし、実際にできたウイスキーは社内では不評でした。そこからどのようにしてブラックニッカクリアが生まれたのか。続きをお楽しみください。
※こちらはニッカウヰスキー佐久間さん(顧問シニアチーフブレンダー)インタビュー記事【後編】となっております。(写真は佐久間さん、新婚旅行パリのモンマルトルでのお写真)
※【前編】をまだお読みでない方は以下よりはじめからお読みになることをお勧めします。
佐久間さん(以下敬称略):ノンピートのウイスキーをつくりはじめて、初めは「麦っぽい」とか「穀物感が強い」といった理由で、評判はよくなかったんです。
で、やっぱりだめか。。なんて言っていたんですが、そこで佐藤茂生さんが
「もっと熟成しなきゃわからないから、継続してつくっていこう」と。
それから5年後くらいです。佐藤さんがブラックニッカの新商品の開発に携わっておられたときに「あのノンピートのモルトウイスキーを使ったどうか」と思いつかれたことがきっかけでした。そこで生まれたのが現在のブラックニッカ クリアです。
ブラックニッカ クリアはものが先にあって、原酒がそれにくっついてきたイメージだったんです。
ーー
面白いですね。どうしてスコットランドはそこまでピーテッドモルトに拘っていたんでしょう。
佐久間:
伝統的にピーテッドモルトを使うのがスコッチウイスキーだという常識というかプライドみたいなのがあったんですよね。そのせいで、ノンピートを使っていても誰も言い出せなかったんではないでしょうか。なので昔はみんな隠れてこそこそノンピートで仕込んでいたんです。
私もその実態を知るまでは、ピーテッドモルトを使っていると思っていましたから、その事実を知った時はそれこそ驚きでしたね。
ーー
単純に疑問に思ってしまったのですが、スコットランドでノンピートを取り入れ始めた際に「味が違う!」みたいなことはなかったんですかね?
佐久間:
どうだったんでしょうね(笑)これは想像ですが、おそらく少しずつ味を変えていったのか、ピートが強かったのをだんだんと弱めていったんじゃないかなあと思います。
ニッカの場合はノンピートを取り入れるまでは全てピーテッドモルトを使っていたので、それまでの銘柄の原料をノンピートに変えるといったことはせず、昔のものは変わらずピーテッドのみで。新商品に新しい素材としてノンピートをバランスよく取り入れる。といった方向性をとっていました。
ニッカは84、5年から90年代にかけていろんなことにチャレンジしていました。
ピュアモルトを出してみたり、フロムザバレルを出したり、あるいはカナダからライ麦のウイスキーを輸入してラムと混ぜたりとか、世界中からいろんな素材を集めてさまざまなウイスキーのおいしさを届けようという取り組みをしてきましたね。
ーー
ライ麦とラム!? ライ麦って通常のモルトと一緒なんですか?
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佐久間:
ライ麦はニッカでもウイスキーをつくったんですが、結構大変でしたね。。汗
一癖も二癖もあったので、難しかったです。穀物感が強くて、スパイシーで独特な香りがあったんですよね。
ーー
さまざまな原料には特徴があっておもしろいですね。ぜひ試してみたいです。
3. 竹鶴政孝より受け継ぐウイスキーへの想いとは
ーー
そんなさまざまなことをやられてきたニッカウヰスキーですが、創業者であり、NHK朝の連続テレビ小説「マッサン」のモデルとなったことでもお馴染みの竹鶴政孝さんから受け継がれている考えや魂のようなものがあればお聞きしたいです。
佐久間:
そうですね。私がニッカに入社した頃にはもう竹鶴さんはお亡くなりになられて実際にお会いしたことはないんですけれども、やっぱり脈々と売れ継がれているのは「よりおいしいいウイスキーを多くの人に届けたい」という想いじゃないでしょうか。これは今でもニッカのベースとなっています。
ーー
なるほど。。「おいしい」の定義ってなんなんでしょうか。
佐久間:
定義は難しいですよね。好き嫌いもありますので、なにをもっておいしいというかは確かに難しいです。
でも、概念としては、おいしさを決めるお客様の前につくっている自分たちが「やっぱりおいしいよね」と思えるものでなきゃダメだろう(笑)といった考え方だと思います。
ーー
やっぱりつくり手の方々が本気でおいしいと思ったものを出されているんですね。
佐久間:
そうですね。つくっている本人たちが自信をもって「これはうまい」と言えないとなかなかそれを売り物をするというのは精神的にも辛くなっちゃいますよね。
ーー
なるほど。ニッカでは味の最終決定はどなたがされているんですか?
佐久間:
それはチーフブレンダーがやっています。私はもう引退してしまったので、横からアドバイスをするといった程度で、最終的には現役のチーフブレンダーの方ですね。
ーー
マスターブレンダーはいらっしゃらないんですか?
佐久間:
現在ニッカにはマスターブレンダーはおらず、過去4人しかいないんですね。
竹鶴 政孝さん、竹鶴 威さん、佐藤 茂生さん、山下 弘さんを最後にそれ以来空席で、これからも空席だと思います。
ーー
え、なぜこれからも空席なんでしょうか!
佐久間:
もともとニッカのマスターブレンダーは創業家の竹鶴家がやっていたんです。それがそれまでの功績や竹鶴さんからの直接の指導が認められて佐藤さん、山下さんが後を継ぎましたが竹鶴家の人間はニッカにはもういないので、山下さんを最後にマスターブレンダーはもう現れないと思いますね。
ーー
なるほど…。マスターブレンダーというのは奥が深いですね。
4. これからのウイスキー界について
ーー
これからの日本のウイスキーへの思いをお聞かせいただけますか。
佐久間:
近年、全国のあちこちでウイスキー蒸溜所が誕生するという傾向がでてきていて、これはとても歓迎できると思います。
ただ最近ではジャパニーズウイスキーの定義が発表されたのもあり、「ジャパニーズウイスキー=素晴らしい」と一部のマスコミなどで騒がれているので、そこは懸念しています。ジャパニーズウイスキーだからおいしいとか、優れているということはないと思います。、ジャパニーズウイスキーの定義の中でいかにおいしくするか、に尽きると思っていて。定義の枠内でつくったら全て美味しいということではないことはわかって頂きたいですね。
ルールはあっても、ルールの中できちんとやらないとおいしいものはできないんですよね。
それこそニッカでは、あまりジャパニーズにはこだわっていないんです。おいしい素材があればそれを世界から輸入してきて、それをブレンドしてまた新しいおいしさをつくればいいと思っています。
そういった「いかにおいしいものを届けるか」というところは新しく始めたつくり手の方々には真剣に考えて欲しいところではありますね。
ーー
なるほどなあ。。ウイスキーをつくる工程の中で、特にこだわっているところなどありますか。
佐久間:
そうですね。全て重要ですが、やっぱりパートとして大きいのが醸造と貯蔵ですね。貯蔵がやっぱり1番時間かかりますし、若い蒸溜所が辛いところはこの原酒の若さですよね。創業して長いメーカーが持っている50年・60年ものをつかって幅が出すことができないんです。
その点ではやっぱり経験が浅くて苦労はすると思います。なので、10年・20年後を見据えてもっともっとおいしいウイスキーがでてくることに期待をしています。
ーー
確かにそうですね。最後に、若くしてウイスキーのつくり手を志す方へ一言ありましたら、お願いします。
佐久間:
今はインターネットなどでウイスキーの作り方などは見ることができるので、いい傾向ができつつあるんだろうなあとは思います。
そうはいってもこれから時間をかけて経験を積んでいかないといろんな技術にチャレンジしないとなかなかおいしいものは出来ません。それにチャレンジをし続けてもっとおいしいものを追求していってほしいと願っています。
ーー
なるほど。時間をかけて積み上げていって欲しいということですね。
本日は貴重なお時間ありがとうございました!
まとめ
いかがでしたでしょうか。日本のウイスキーを作った竹鶴政孝さんがつくったニッカウヰスキーの想いをつむぐ佐久間シニアチーフブレンダーにお話をお聞きしましたが、人柄にも日本のウイスキー界を引っ張ってきた偉大さが表れていました。
今回以降も佐久間さんのインタビュー記事は続きます。原料担当時代のお話や、これまでのウイスキー開発の裏側などさまざまなお話を伺っていきますので、ぜひお楽しみに。
みなさんが作り手に聞いてみたいお話や質問などもぜひコメントにてお待ちしております!
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