イチローズモルトの誕生秘話とは【第1回/全3回】

世界的な人気を誇るイチローズモルトのつくり手であり、株式会社ベンチャーウイスキーの創業者である肥土伊知郎(あくといちろう)氏。

多くの人を虜にするブランド誕生の背景をお聞きしたインタビューの様子をお届けします。


1.「伊知郎」という名前と「イチローズモルト」

ーー
本日もよろしくお願いいたします!今回は、イチローズモルトという名前が生まれた背景からお話を伺いたいと思っています。まず、肥土伊知郎さんの「伊知郎」というお名前に込められた想いから伺ってもよろしいでしょうか?

肥土さん(以下敬称略):
よろしくお願いします。名前に関しては、まず長男だったということで「いちろう」となりました。ただ、肥土家の長男には「伊」の字、これをつけるというのが当時の風習だったみたいで、それで伊豆の「伊」に知識の「知」に、「郎」で「伊知郎」という名前にしたという風に聞いています。

ーー
あまりお見かけしない漢字ですよね。

肥土:
ええ。でも、何年か前に番組で一緒になった「古舘伊知郎さん」はおなじ「伊知郎」なんですよね。それで親しみを持っていただいているみたいで一緒に飲みに行きましょうと言っていただいたのですが、まだ実現してないですね。

ーー
愉しそうですね!コロナがはやく収束すればいいですね。
「イチローズモルト」はもちろんご自身のお名前から付けられたと思うのですが、どのような経緯で「イチローズモルト」という名前が生まれたのか、その背景をお聞きしたいです。

肥土:
父から引き継いだ原酒、これを商品化するときにやっぱり名前をつけないといけないということで考えました。最初に思いついたのは一般的なシングルモルトウイスキーの名前のつけ方。

というのは、土地の名前だったり蒸溜所の名前だったりですね。例えば「山崎」「白州」「余市」「宮城峡」みたいな。こういった、地名か蒸溜所の名前をつけるというのがわりと一般的で通りがいいネーミングなんですよね。

ところが、父から引き継いだその原酒の数というのは400樽相当と限られていたので、いつかは無くなってしまいます。そうすると、土地の名前をつけたところで、せっかくみなさんにウイスキーの名前を覚えてもらった頃にはもう売る原酒が無いということになる。

それでは、未来に繋がっていく名前になっていかないなあと。あまりおもしろくないというか、それじゃいけないなあという風に思ったんですね。かといって、その当時は新しい蒸溜所を秩父につくりたいなあという夢は持っていましたけど、まだ影もかたちもないですから「秩父」って名前をつけるわけにもいかないなと。

秩父蒸留所(出典:ウイスキーマガジン)

じゃあ、何がいいかなというときに「つくり手の名前」をつければいいんじゃないかと思ったんですよね。例えば、バランタインとか、ジャックダニエル、それからジョニーウォーカー。創業者だったりつくり手だったり、こういった人の名前をつけているウイスキーは世の中にたくさんあるじゃないかと。

だったら、自分の名前をつけるのがいいんじゃないかと考えました。

そこで最初は、苗字を使って「アクトーズモルト」というのを考えていたんですけれども、どうしても語呂が悪いなと。下の名前の「イチローズモルト」にしたらおさまりが良いねということで、この「イチローズモルト」という名前になりました。

ーー
そうなのですね!「アクトーズモルト」もちょっと見てみたいです(笑)。

肥土:
そうですね。輸出する分には問題ないと思うんですけどね。なんとなくイメージが…悪い奴がつくっているように聞こえると困るなと(笑)。国内だと誤解されるのかなという部分がありましたね(笑)。

2. 豊富な種類のイチローズモルトとJWのアイデンティティ

ーー
普段イチローズモルトというのはどのくらいの種類があるのかなと、ネットで調べたのですが、たくさんの種類があるのですね。
例えば「MWR(ミズナラ・ウッド・リザーブ)」とか「DD(ダブルディスティラリーズ)」といったものがあると思うのですが、それが決まっていくプロセスをぜひ知りたいなあと思っていたんです。お聞かせいただけますか?

肥土:
今だとそうですね…。いわゆるスタンダードなラインで言うと、必ず毎年出ますよというのは4種類・5種類で、年に1~2回出ますよというのも入れると5・6種類が定番的な商品なんですよね。

それ以外に、いわゆる「シングルカスク」要は1樽だけボトリングしますよというのが製品として存在します。これと、例えば特定の百貨店向けだったり特定のお客様向けにつくるシングルモルト、シングルカスクウイスキーを含めると、年に何十種類も出るということになります。

そういうわけで、この10年かけて相当な数がリリースされてるなという風には思います。

ーー
どれも惹きこまれるような名前ですよね。すべて肥土さんが命名されているのですか?

肥土:
自社のものに関してはスタッフと決めています。最初のころはひとりで決めていましたけどね。お客様にシングルカスクでお譲りするときには、お客様の意向みたいなものもお伺いしながらつけていく。そんな感じですかね。

ーー
ロゴもすごくおしゃれですよね。そういうものも含めて「ここはすごくこだわっている」とか「これだけは譲れない」みたいな要素があれば、ぜひお聞きしたいなと思っていました。

肥土:
そうですね。ロゴに関しては、うちのロゴってどんぐりマークなんですけれども、どんぐりっていうのはウイスキーを熟成させるオークの実ですよね。ですので、ウイスキーづくりに必要不可欠なオーク材・ナラ材は、最初はちっちゃなオークの実から始まります。「どんぐりから成長して樽になるような巨木に育つんだよ」ってことなんですよね。

私どもの会社ができた時には、最初は自分ひとりしかいないような小さな会社でした。そこにひとり、ふたり、と人が増えてきてくれて今の人数になったわけです。

最初は「小さくてもいずれ大きな木に育ちたいなあ」と思って、そしてまた大きくなった時に自社のロゴを見ることによって「昔は小さなどんぐりから始まったんだな」って初心に戻れる。そういった「当時のこの会社を始めた時の初心を忘れない、そのためにあのロゴがある」みたいに自分自身は思っていますね。

イチローズモルト ロゴ (写真提供:ベンチャーウイスキー社)

ーー
すごくいいお話ですね…!ミズナラの葉などにも、そういった想いが込められているんですか?

肥土:
ミズナラの葉っぱに関しては日本のオーク材と言えばやっぱりミズナラということで、日本のウイスキーメーカーとしてそこにひとつのアイデンティティがあってもいいんじゃないかなと思ったんです。それで、日本のオーク、ジャパニーズオークをモチーフにしていると。

ロゴもそうですしリーフラベルも、かわいくするために多少はデフォルメしたり整えたりしてはありますけれども、やっぱりジャパニーズオーク、ジャパニーズウイスキーとしてのひとつの主張に繋がるかなと思って採用していますね。


「伊知郎」というお名前の由来から「イチローズモルト」の名づけエピソード、ロゴに込められた想いなど、素敵なお話ばかりでしたね。次回は、おしゃれなラベルが目を惹くカードシリーズについてのお話です。

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