シングルモルト「あかし」つくり手の生い立ちを探る「会社員から単身酒蔵に弟子入り!?酒づくりにかける想いとは。」【第2回/全3回】

今回の記事は前回記事の続きとなっています。
まだお読みでない方は以下をクリックし、【前編】よりお楽しみください。

3.お酒づくりに経歴は関係ない?

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文系出身で杜氏をやられているというのはかなり特殊といいますか、あまり聞いたことがなかったので新鮮なお話ですね。

中村さん(以下敬称略):
経歴を話すと驚かれることが多いですが、自分自身そこまで特殊だとか考えたことはないですね。
若い頃は本当にお酒づくりが大好きでやっていただけなので、「自分は文系だから」とか、「将来杜氏としてやっていこう」とかは全然考えたことはなかったです。でもいつのまにか日本酒やウイスキーなど、お酒づくりが「好き」を超越して、本当に生活の一部になってしまったような感覚ですね。

江井ヶ嶋酒造のポットスチル

たとえば、休日であるはずの日曜日に出勤したとしても全然苦ではないこととか。今は労働法とか色々厳しいから、会社からはあまり休日に出勤しないでくれみたいな話もされるのですが、そんな中でもタイムカードを押さずにそっとお酒の様子を見に行っています。

これは、自分だけが特別なわけではなく、杜氏ほどお酒をつくってきた人達はだいたいそうな気がしますね。逆に、家でじっとしていてもお酒の状態が気になってしまい、落ち着いた休日を過ごせなくなってしまいます。

もちろん若い人も頑張ってやってくれているので、自分が休日に行かなくても仕事としては大丈夫なのですが、やはり見に行かないと不安になってしまいます。

ーー
お酒づくりの時間の蓄積が身に染み付いて、ものづくりに対する愛着となっているんですね。

4.中村さんのこだわりとは?

ーー
生活に溶け込むほどお酒づくりに携わっている中で、中村さんが今目指していることはありますか?

中村:
お酒づくりの技術的なところを言えば、キリがないですね。経験上、百点満点のお酒は絶対にできないということは分かっているんです。自分でいいものができたと思うときも、「もうちょっとここをこうすればよかったなあ」みたいな反省点と向上心が生まれてきます。
また、現場の責任者になるとそれ以上はなかなか目指すポジションが少なくなってきます。それこそ、自分で酒蔵を立てるレベルの大きなことになりますね。

江井ヶ嶋酒造での日本酒

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おお!まさに、弊社アドバイザーの輿水精一さんも「お酒に百点は絶対にない、妥協の質を最大限まであげる仕事」とおっしゃっていたことを思い出しました。つくり手たちはやはり似た想いを持ってやっているのですね。

中村:
おっしゃる通りです。そういう意味では、いいお酒をつくること以外で何を目指しているかというとなかなか答えるのが難しいのです。
ただ、体の一部になっているくらい会社のなかでお酒をつくり、会社で切磋琢磨してきましたが、自分も今年で50歳になります。ですので、「一年でも長くこのお酒づくりという仕事を元気で続けたい」というのが今一番の目標です。日々いいお酒をつくろうとすることはつくり手として当たり前のことなので、それよりも体調を整えることを意識していきたいですね。

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特に最近はコロナが流行していますからね。

中村:
コロナ禍はどうしても悪い側面が取り上げられがちなのですが、マスクをしっかりつけるようになったという意味では意外と自分の中で良い影響を与えてくれました。コロナ予防でマスクをつけるようになったことで、ここ2年風邪をひいていないですからね(笑)。

江井ヶ嶋酒造「神鷹」と中村さんのツーショット

ーー
2年間も!それはすごいですね。

中村:
もちろんコロナが流行る前も、特に冬場は風邪をひかないように気をつけていたのですが、会社全体で体調には気をつけようという意識を持つようになったのは良いことですね。あとは、今後のことを考えて、10年前からは辛いものを食べなくなりました。

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味覚にも気を使われているということですか?

中村:
はい。味を感じる仕事であるという側面では、とても大切なことだと思います。若い頃と比べるとだんだん舌も衰えているので、そのケアはしっかりしています。かといって薄味ばかりだとストレスも溜まるので嫌なんですけど(笑)。
あとは、自分がベストなコンディションでお酒づくりを長くするためにも、「深酒はしない」など、歳をとるにつれて自分ができる範囲での管理には気を使うようになりました。

やっぱり身体が衰えて急にこの仕事を辞めてしまうのは会社にも迷惑がかかるので、体もしっかり動けて、ちゃんと判断できる状態を少しでも長く保っていきたい、というのが今一番の目標です。

5. つくり手としてのお酒に対する想い

中村さんの酒づくり現場(出典:公式Twitter)

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多くのお酒づくりのプロフェッショナルの方々の話を伺っていくと、改めて共通の価値観が多いと感じるのですが、杜氏の方々が意識しているところはやはり同じであることが多いのでしょうか。

中村)その話をするには、杜氏のざっくりとした枠組みをお話しなければいけませんね。大きく杜氏は三つに分けられます。

一つ目は大手酒類企業の杜氏です。大きな工場の工場長であることが多く、55歳くらいになると役員退職になります。二つ目は蔵元杜氏です。特に最近この種の杜氏さんは多いですね。会社の息子さん、娘さんが自らお酒をつくり、経営もやられるということが特徴です。三つ目は我々のようないわゆる雇われ杜氏です。

ーー
なるほど、杜氏にも種類があるんですね。それぞれの杜氏の中で意識することは変わってくるんでしょうか。

中村:
それぞれ杜氏になるまでの背景が大きく異なるので、意識することは少しずつ違ってくるのかなとは思っています。

大手さんの杜氏は、大手ということで外から中から相当なプレッシャーがかかる中でしっかりやることが求められると思います。蔵元杜氏は、利益から何まで自分で面倒を見るので、とにかく時間度外視でやることを意識している印象があります。

雇われ杜氏は、杜氏というものを通じて生きているという自負があるので、蔵元杜氏さんにも大手さんにも負けたくないという気持ちを持ってやっています。規模ではもちろん勝てないですけど、とにかくいいお酒をつくりたいという努力や姿勢、考え、全てひっくるめて、負けたくないですね。技術はともあれ、個人的には1番強い想いをもって酒づくりに取り組みたいと思っています。

ーー
状況や背景によってやられる仕事や姿勢も多種多様なのですね。

中村:
はい。しかし、いいお酒をつくりたいという想いは間違いなく皆さん一緒です。ひと昔前まではあまり美味しくない日本酒がたくさんありました。編集さんは若いから分からないかもしれないですけど。

ーー
確かに、私が飲んだことのある日本酒はどれも美味しい印象しかないです。(現23歳)

中村:
ですよね。我々の年齢だとそういった日本酒も舌で経験しているからこそ、美味しさを求める感覚はかなり研ぎ澄まされてきたのではないかなと思います。

しかし今では、みんないいお酒をつくってくるようになり、日本酒のレベル指数もかなり高くなってきているので、ちょっとでも美味しくないお酒をつくったら弾かれてしまうんです。といった意味では、少しでも気が抜けません。

ですので、この仕事をやっていくためには「美味しいお酒をつくりたい」という強い想いが大切なんですね。
僕個人の話になりますと、僕が担当している仕事は誰も見てないことが多いので、手を抜こうと思えばいくらでも抜けるんですよ。僕が昼寝してようが誰も気づかない。だからこそ、お酒のためにどれだけできるのか、を常に自分に言い聞かせています。

ーー
孤独な戦いですね。

中村:
もちろんお酒づくりは一人ではできないので、いいお酒をつくりたいという強い想いを蔵人にもスタッフにも浸透させることを意識しています。もちろん蔵人もスタッフも十人十色なので、伝え方はとても考えますが。

将来つくり手になりたいという人はどんなにきつくても絶対についてくるので伝えやすいのですが、そういう方ばかりではないので、メンバー全員をどう引っ張り上げて戦力にしていくのか、がとても難しいです。

ーー
一緒にお酒をつくっているからこそ、チーム全体で意識を共有し士気を高めることはとても重要なのですね。


いかがでしたでしょうか。お話をしていて、中村さんの職人としての一面や酒づくりへの想いの強さをひしひしと感じました。
最終回となる次回では、江井ヶ嶋酒造でのチームワークやウイスキーのロマンについてつくり手目線からその様子をお伝えします。

最後に、あなたの好きな江井ヶ嶋の銘柄をページ最下部のコメント欄よりお聞かせください。
いただいたコメントは中村さんに直接お届けします。次回もお楽しみに。

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