日本ウイスキーに半生を捧げた男、アジア初・ウイスキー殿堂入り輿水精一【第3回/全3回】

4.『100点』の無い世界だからこそ『妥協』の質を高めていく

ーー
やはり「金賞」や「ディスティラーオブザイヤー」は最初から狙ってないと獲れない難しい仕事でしたか。

輿水さん(以下敬称略):
そうですね。よく巷では「結果は後からついてくる」っていいますが、僕は違うと思います。

最初から最高峰を目指し、「トロフィー(※)」も意識して試行錯誤しないと、「ディスティラー・オブ・ザ・イヤー」なんて取れないと思いますね。

※トロフィーとは:
ISCの賞の中でも最高位にあたるダブルゴールドを受賞した銘柄をもとに、各部門で最も優れたものに送られる賞。

僕らはとにかく「お客様のためのいいものづくり」と「ディスティラー・オブ・ザ・イヤーをとりたい」という気持ちもあって、そうすると、やっぱりたくさん金賞をとらなきゃいけない。そのためには、新製品でも金賞をとらねばならない。

新製品を開発する中で、スコッチウイスキーのブレンダーたちが「このウイスキーはトロフィーに値するな」と言うような製品にするにはどうすればいいのだろう…と突き詰めて考えていく。こういう意識と試行錯誤のくりかえしですね。

ーー
ストイックに考え続けて、やり続ける必要があるのですね。

輿水:
そうです。これは僕もよくいってるのですが、『100点』なんて答えはない世界です。

ブレンドの世界でいえば組み合わせは無限大ですし、それぞれ結果に対しても「なんかここが物足りない」「ここを変えたらどうだろう」ってのがあるので、ずっと試行錯誤していきます。

そこで簡単に妥協しないのが大事です。

日本人は、「ものづくり」という領域で簡単に満足しない心を持っていますし、「もっと美味くするにはどうしたらいいか」を考え続けるような人が多いので、そういう気質はあると思います。

ーー
100点が無い中でも「これはいいものができたな!」と思うのはどんなタイミングなのでしょうか?

出典:イエノバ・サントリー

輿水:
商品化する時も、ブレンダーとして僕が自分でGOサインは出すのですが、どれほど試行錯誤を繰り返したとしても最後だって『完璧だ、100点だ』なんて瞬間は来ません。

これは、ある意味で言えば、最後の瞬間も『妥協』と言えると思います。

そんな中で僕が『もう出してもいいかな』『ここで仕事を終えるしかないかな』と思えるのは、”次の打ち手が浮かばなくなった時”ですね。

自分が思っている香りや味に対して、普通なら「こんな原酒を入れてみよう」となります。

でもやっていくうちに、それが思いつかなくなる瞬間がきてしまいます。

これはある意味で妥協であり、1つの仕事の終点だと思っています。

もちろん妥協は妥協なんですが、妥協の質を高める、より高いレベルで妥協する。そういうのをずっと目指していました。

ーー
奥が深いですね。何か今後のウイスキー業界にメッセージはありますか。

輿水:
商品開発ってともすると納期やコストの関係で早い段階で諦めたり妥協したりしかねないものです。

でも、ウイスキーづくりはもうちょっとそこに「ブレンダーのこだわり」が入る作業でして、そういうこだわりを持って製品の開発をやっていく人が増えるといいなとは思います。

要するに、『アイデアが思いつくうちはやりきれ』ってことを伝えたいですね。

例えば原酒がなくても、「うちにこんなキャラクターの原酒があれば、こんな風にもっと美味くなるんじゃないかな」と思うんだったら、R&Dや生産現場に「こんな原酒を作って、そうしたらもっとこんな風にうまい酒ができる」って掛け合って開発してもらう。

そう言うのでまた一歩前進して理想の味に近づく。こういうのの小さな積み重ねを繰り返せるような人材が求められている気がしますね。

ーー
とても心に沁みるお言葉です。本日はありがとうございました!

まとめ

以上、世界的ブレンダーで、CELLARR®︎のアドバイザーも務める輿水精一さんの生い立ちやウイスキーにまつわる想い、ものづくりへのこだわりなどを全3回のインタビュー形式でご紹介しました。

今回の記事から溢れる輿水さんの『想い』、つくり手だからこそのこだわりが垣間見えた気がします。

ウイスキーを飲む際は、こういったつくり手の想いや技術に目を向けるとまた違った楽しみ方ができるかもしれません。

CELLARR®︎では、本記事以外にも輿水さんやその他さまざまなつくり手へのインタビューをもとに様々な記事を執筆していきます。

次回もお楽しみに!

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