日本ウイスキーに半生を捧げた男、アジア初・ウイスキー殿堂入り輿水精一【第2回/全3回】

3. 日本ウイスキー界が認められた瞬間

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輿水さんは、2015年にウイスキー界の中でも最も格式高い賞と言われる英国のウイスキーマガジン社の認定する『Hall of Fame』を受賞されていますが、受賞の前後で何か変わったことはございましたか?

『Hall of Fame』とは:
業界も認めるパラグラフ・パブリッシング社発行のウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」が長年に渡りウイスキー業界において特筆すべき貢献を果たした個人に贈る栄誉ある賞。2004年から始まったこの賞の受賞者は、世界で72例(2021年7月時点)。

輿水さん(以下敬称略):
『Hall of Fame』の受賞は、とてもありがたい話です。
でも、大前提として「ウイスキーは一人で作るもんじゃない」ということも知っておいてほしいですね。

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おお…と、言いますと??

輿水:
たとえば僕が現役時代につくっていた山崎の18年なんて、大先輩たちが18年前に仕込んだ原酒からできています。
ブレンディングの腕もあるのですが、やっぱり「いい原酒がないといいウイスキーはできない」です。

だから、この業界は誰かにスポットライトが当たることが多いのですが、その周囲で頑張った人たちの働きが重要なのです。ノーベル賞も一緒でしょう。もちろん、マスコットになるような人がいることは悪くはないのですが。

ですから僕は、『Hall of Fame』の受賞は、僕個人に贈られたものではなくアイルランド人だったりスコットランド人だったりというプロたちが「日本でもいいウイスキー作ってるじゃないか」と認めてくれた証だと思っています。

2015年「Hall of Fame」を受賞した際の輿水さん
(出典:サントリースピリッツ株式会社)

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先人たちへのリスペクトが溢れていらっしゃいますね。そのほかに、思い出に残るような出来事はありますか??

輿水:
『Hall of Fame』もあるのですが、もっと個人的に画期的な出来事だと思うのは2003年にISC(International Spirits Challenge)で山崎が金賞に選ばれた時です。
ISCは世界の中でも『ものづくり』をやるものの中では、一番権威ある賞ですね。

ここでは、審査員は全員とも各メーカーの品質のトップである現役の『チーフブレンダー』や『マスターブレンダー』、『マスターディセラー』が務めています。競合のお酒を、中味だけの評価でブレンダーがブラインドテイスティングして点数をつけていくという感じです。

もちろん、審査員はその道のプロですから「この味は、この会社のどの商品だな」「これはあの会社のこの商品だな」なんてもうわかっています。
そして、このコンペティションの素晴らしいところは、『金賞は全員一致じゃないともらえない』というところです。

山崎ウイスキー(出典:ライフバケーション)

世界のコンペティションで審査員が全員「つくり手」であり、全員一致じゃないといけないなんていうのはISCくらいじゃないかと思いますね。

他のコンペティションだと、評論家やマニアなどが審査員を務めてることが多いのですが、つくり手側からすると評価に再現性がなかったり、発酵や貯蔵など製造工程に由来する異味・異臭などわずかな欠点を見逃してしまったりするんですよね。

だからこそ、「山崎」がこの『ISC』という舞台で金賞を取れたことは、本当に意味あるものだと思いますね。

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輿水さんはここで11年もの間、審査員も務めていらっしゃいましたよね。

輿水:
そうですね。2004年から僕はこのISCの審査員を務めることになるんですが、これはブレンダーとしての技能技術を大きく成長させる貴重な場となりました。

というのも審査の過程では、「ジョニー・ウォーカー」(スコットランド南部で生産される世界的に有名なウイスキーブランドの1つ)とか「バランタイン」(ジョージ・バランタイン&サンによって製造・販売されているスコッチ・ウイスキーの銘柄の1つ)とか世界でも昔からすごい有名なウイスキーのブレンダーが横にいて、ウイスキーを1本1本評価していきます。

更に素晴らしいのは、そういった有名なブレンダーと一緒に、1本1本評価のすり合わせを行うところですね。
みんなが見てる前で「これは何点」と発表させられて、周りの審査員と点数がずれていると、「キミはなんでその点数なんだ?」ってことになってしまうのです。

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たしかに…トップブレンダーたちの前での評価は身が引き締まりますね。

輿水:
1回400本くらい評価するのですが、これを11年やったので4000本以上のウイスキーについて、スコッチのトップブレンダーたちとすり合わせができました。

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4000本以上…!!

輿水:
そういう環境だったからこそ、「この人はこういう評価傾向があって、こういう味や香りを高く評価するんだな」っていうのがわかってきましたね。
やっぱりブレンダーは『評価力』が全てなので、こういう経験を積めたことでかなり評価力が鍛えられたと思います。

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ほかにウイスキー界で注目すべきコンペティションはありますか。

輿水:
そうですね、ISCなのですが金賞以上に価値ある賞に「ディスティラー・オブ・ザ・イヤー」があります。
これは、その年に出品したウイスキー全製品の個々の評価の合算で、自動的に各メーカーの1番・2番が決まっちゃうルールなんです。

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おお!サントリーが2010年に最初に受賞したものですね!

輿水:
スタンダードクラスからスーパープレミアムクラスまで出品した製品の殆どが金賞、悪くても銀賞をを取ってないと「ディスティラー・オブ・ザ・イヤー」には輝けないという仕組みなので、日本のウイスキーメーカーとしては「ディスティラー・オブ・ザ・イヤー」をとることが最高の目標だと思います。

2010年、サントリーが初めてディスティラーオブザイヤーを受賞した際の写真(出典:サントリースピリッツ株式会社)

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金賞にしていくためのプロセスはどんなものなのですか?

輿水:
まず既存品のどの部分を改善、強化すればスコッチのマスターブレンダーたちが金賞という評価を下すか、一から品質を見直すことから始めます。

とにかくイメージとしては、『優』の数を増やさなきゃいけないってことですね。『可』なんかとってちゃだめですね(笑)

毎年、向こうの(スコットランドなどの)ブレンダーが評価してくれるので、毎年品質を高めることで向こうのトップブレンダーたちに「これはすごい」「これは金賞だ」ってのを言わせたかったですね。

少なくとも2004年以降に出す新製品は、「初出品の時から金賞って言わせてやろう」そんな思いで作ってきました。そうやってやり続けたのですが、そんなに簡単な賞ではないので2010年にようやく初めて「ディスティラー・オブ・ザ・イヤー」が取れました。

やっぱり、これは意識していたからこそできた仕事だと思いましたね。

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