イチローズモルトの誕生秘話とは【第2回/全3回】

肥土伊知郎さんへのインタビュー第2弾。

今回は、トランプのデザインが印象的なカードシリーズについて詳しくお話を伺いました。54種類という豊富な種類のカードシリーズはどのような経緯で生まれたのでしょうか?

3.Barのお客さんの目を惹くカードシリーズ誕生秘話

ーー
カードシリーズもすごくかわいらしい佇まいですよね。カードシリーズに至るまでの背景や、デザインについてもお伺いしたいです。

肥土さん(以下敬称略):
実はですね、何種類かウイスキーをリリースしていたけれどもカードシリーズはたまたま4つのシングルカスクを製品化しようということで、偶然バーで出会ったデザイナーと打合せをしていたんですよ。その打合せもバーでしていました。

その時に「そういえばトランプって4つのマークだよね」みたいな話になったんです。バーで打合せしていると、もうそこに商品サンプルがいっぱい置いてあるようなもので「この中でトランプのラベルが並んでたら、これは目立つなあ」なんて話になり、「じゃあそうしよう!」と。

トランプってのは世界中で知らない人がいないゲームですし、しかもウイスキーのラベルに採用している人がいなかったんですよ。

最初はシリーズ化する予定がなかったので一番強いカードを4枚使っちゃったんです。スペードのエースにダイヤのキング、ハートのクイーンとクローバーのジャック…「あ、これは見栄えが良いや!」みたいな感じで。そして4種類生まれたんですね。

Ichiro's Malt Card Series | The Japanese Whisky Review
初期のカードシリーズ4本(出典:The Japanese Whisky Review)

そうしたらやっぱり最初は、酒屋さんにも「こんなに高いの売れないよ」って言われたんですけど、「とりあえずあそこのバーが置いてくれるって言ってます」みたいな感じで声をかけました。

でも、実際バーに並ぶとですね、お客さんのほうから「あのウイスキー何?」ってマスターに聞いてくれるようになったんですよ。そうするとマスターは詳しいですから「これはね、蒸溜所立ち上げたいなんて言ってる変わった人がいるんだけどさ…」みたいな感じで、いろいろ背景も説明してくれるんですよ。そうして「じゃあ飲んでみるわ」みたいな感じでお客さんから指名が入るようになったんです。

そうしたら、ダイヤのキング「キング・オブ・ダイヤモンズ」がウイスキーマガジンという、世界的に愛好家やプロの方たちが読む雑誌のジャパニーズウイスキー特集で最高得点を取りました。そうするとウイスキー業界の中でちょっとザワついたみたいなところがあって、やっぱり最高得点というとそれなりに引き合いも若干強くなったんですよね。

WWAで最高得点を受賞した
「キング・オブ・ダイアモンズ」

じゃあ、せっかくだからトランプの全種類つくっちゃおうと。最初は53種類って言ってたんですけど、最終的にはジョーカーをカラーとモノクロの2種類出したので54種類のラベルになったんですけどね。

その時に、その次以降のふつうの数字だけのラベルも、デザインをどんどん変えていこうと思ったんですよ。要は、ふつうにトランプのラベルがずらーっと54種類並んでるだけではちょっと面白くないなあと。

というのは、自分自身がウイスキーの飲み手だから。だんだん楽しくウイスキーを飲んでると酔っぱらってきますよね。その時に、例えばハートの7とダイヤの7って記憶の中で「どっちだったかな?」ってなっちゃうじゃないですか。

カードシリーズってどんどんラベルを変えることによって、前飲んだものとは中身が違いますよと伝える。熟成年数だったり樽の種類を変えていくことによって、ひとつの樽にひとつのラベルが対応するっていうかたちになるので。

たぶん愛好家の人って気に入ってくれたら次のラベル、新しいラベルのものを飲んでみたいと必ず思われると思うんですよ。その時に似たような「赤い7」くらいのようなイメージしか持たない場合もあるので、その時に明確にデザインが変わっていると「あ、このラベルははじめて見るラベルだな」と、お客様が次々と新しいものを口にしてくれる。

そういうイメージをもってイメージをどんどん変えていく。これは個人的な経験に基づく工夫なんですけどね。

ーー
なるほど!ありがとうございます。伊知郎さん自身が飲み手だったからこそ、そういうところに意識がいって気づけた部分もあるのかなあと思いながら聞いていました。

肥土:
そうですね。飲み手じゃない方からのアドバイスで「デザインを統一化したほうがカッコイイよ」みたいなことを言われたことがあるんですけど、自分の感覚からすると「それって違うよね。あくまで飲んでもらうためのものだから統一感よりはやっぱり飲み手フレンドリーというか、酔っ払いフレンドリーなラベルのほうがいいんだよ」っていう説明をしたことがありますね。

2007年、WWA授賞式にて(出典:ご本人)

4.カードシリーズ54種類のウイスキーを世に出すということ

ーー
キングオブダイヤモンズが金賞を獲ってそこから54種類つくるとき、例えばダイヤモンドだったらダイヤモンドで味のベースを揃えて変えていくとか、そういったイメージで広げていかれたんですか?

肥土:
うん、最初はね、そうしようかなと思ったんですよ。例えば「ダイヤだったらシェリー樽」と決めちゃうとか。でも、わりと最初の段階で無理だなということを感じたので、最終的には必ずしもそういう風になっているわけではないです。
まあなんとなく…例えば、スペードをイメージするような味わいのものにしようとか、ハートっぽい味わいのものにしようとか。なんとなくのイメージでくっつけていく、みたいな。
ですから、ミズナラだとだいたいクラブが主流になる。そういう、なんとなくイメージ分けはしているけれども必ずしも絶対的なものではない。そんな感じですね。

イチローズモルト」カードシリーズ、世界記録の1億円で落札 | WINE REPORT
香港のオークションにて約1億円の高値で落札されたカードシリーズ全54種(出典:ワインレポート)

ーー
カードシリーズ54種類をつくるというのは、すごく大変だったんだろうなと感じます。54種類つくるにあたって、一番難しかったところはどんなところですか?

肥土:
本当に大変でした。これは53種類、最終的には54種類でしたけど「出すんだよ」という風にみなさんに言い続けていたので、本当にやらなきゃいけないですからね。

年に少なくて2本、多いときは4本以上。まあだいたい複数、2の倍数でリリースしていきました。9年かかってようやく全種類出し終えた時にはホントに肩の荷が下りたような、飲み手の方との約束が果たせたなということですごくホッとしましたね。

50種類以上ちゃんと出すにあたって、いろんな樽を調達していろんな味わいのものをつくっとかなきゃいけない。その準備がしっかりできていないとそれだけの本数出せなかったので、いろんな意味で大変だったけど良かったなって今は思ってますね。

ーーー

バーでの打合せでのインスピレーション、世界の注目を浴びた「キング・オブ・ダイヤモンズ」のお話、デザインや味のイメージのお話など、カードシリーズ誕生の素敵なストーリーをお聞かせいただきました。第3弾(11/2公開予定)もぜひご覧ください!

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。